総務相の諮問機関で放送コンテンツの流通や保護などについて話し合う、「情報通信審議会 情報通信政策部会 デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委)の第41回会合が、2008年6月24日に開催された。近く策定予定の第5次中間答申の骨子案が諮られ、大筋で了承された。

 この中で、地上デジタル放送のコンテンツ保護技術であるB-CASについて、見直しを行うことを明記。制度変更の必要性の有無と新たな仕組みを今後話し合い、制度変更する場合は2011年のアナログ放送停波までに新制度の運用を始めることが盛り込まれた。また、地デジのコピー制御方式であるコピーワンスの緩和については、7月4日の「ダビング10」開始以降も引き続き権利者に対する対価の還元方法を話し合っていくことで合意した。

B-CAS見直しが必要な3つの理由を総括

 地デジについて第5次答申の骨子案では、「コンテンツ保護は重要な課題であり、そのために送信・受信の双方で一定のコピー制御は必要」と明記。その上でB-CASをめぐっては、これまでのデジコン委で多くの委員から見直しを求める意見が挙がっており、第5次答申の骨子案ではこれらを総括して、主に3種類にまとめている。すなわち、(1)視聴者の意識に関する意見(2)コストや効果に関する意見(3)基幹放送としての地デジの在り方に関する意見――である。

 (1)については、「テレビ受像機やDVDレコーダーなど地デジ受信機の購入後、B-CASカードの挿入などの手間が生じ、不便を感じる人が多い」「無料放送である地デジはアナログ放送と同等の利便性であるべきで、利便性が損なわれ受信機のコストも上昇するとなればユーザーは納得しない。地デジに関してはB-CASカードが不要な形とすべき」「B-CASカードの発行がビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS社)という民間企業に独占的に委ねられているのは不透明」「経営状況などが明らかでないB-CAS社の仕組みを、すべての国民が利用する地デジに採用するのでは、一般消費者からも疑問を持たれる」といった意見が出ていた。

 (2)については、「一家に複数台の普及が見込まれる地デジでは、コンテンツ保護技術もコストを掛けずに行うべき。(現行のB-CASのように)コストを掛けてよいのか疑問」「既に3000万枚以上のB-CASカードが配られている状態で、(B-CASが)無反応機の製造・販売に対する抑止力として機能しているのか疑問」「地デジのコピーワンスやB-CASの導入に権利者は関与していない」「無反応機が実際に出現し始めた現状を見ると、B-CASは不正機器への対抗手段としての役割を既に失っている」「B-CASでスクランブルを解除するための仕様は公表されており、無反応機の製造者に対する抑止効果は高くない」といった意見が出た。

 (3)については、「地デジは、あまねく国民に送り届けることが責務の基幹放送。その地デジにスクランブルを掛けて送信するのは問題がある」「地デジは、災害時の緊急対応や弱者への配慮をうたい文句としているのだから、誰もが受信できるものであるべき。スクランブルに代わるコンテンツ保護の手段があるならば、スクランブルをやめるべき」「あまねく誰もが視聴する無料の基幹放送である地デジに、技術と契約のコンテンツ保護方式が導入されていることで、コストなどの負担がかかっている。この仕組みを続けていくことは問題ではないか」などの意見が表明されていた。

 これらを踏まえて第5次答申の骨子案では、地デジにおいて無反応機などの不正機器を防ぐための仕組み(エンフォースメント)を見直していくことを明記した。具体的には、暗号化や機器認証といった技術により不正機器を排除する「技術的エンフォースメント」と、法制度により不正機器を取り締まる「制度的エンフォースメント」の2つについて、デジコン委でそれぞれの利点・欠点を検証。その上で、放送業界、メーカー、権利者、消費者の各代表が集まるデジコン委で、(1)現行の技術的エンフォースメントの改良(2)新たな制度的エンフォースメントの導入(3)(1)と(2)の併用――という3つの選択肢から、新たな仕組みを決定する。新たな仕組みの導入時期については、「2011年のデジタル全面移行時までにエンフォースメントの在り方を決め、その運用を開始していることが望ましい」とした。

補償金以外の「クリエイターへの対価の還元」策を検討

 コピーワンスの見直しについては、前回の第4次答申において、ダビング10への緩和の条件として「クリエイターに対する適正な対価の還元」という文言が盛り込まれていた。これについて、権利者側は現在のところ「私的録音録画補償金の継続」を意味するものと主張している。第5次答申の骨子案では、「補償金以外の側面から、対価の還元の具体策を今後継続して検討していくことが必要」と記している。

 このほか、テレビ番組として制作されたコンテンツの流通促進については、番組をコンテンツプロバイダーが簡単に購入できるよう、ネット上で番組データベースと取引市場を設け、取引を試行することを提言。また、海外向けの番組見本市の開催や、マルチユースを前提としたテレビ番組の制作に関係者が取り組んでいく。政府に対しては、公的支援などの形でそうした取り組みを後押しするよう求めていく。