デジタル放送推進協会(Dpa)は2008年6月23日、地上デジタル放送のコピー制限を緩和する「ダビング10」の運用開始を、同年7月4日午前4時とすることを正式に発表した。同時刻以降に放送される地デジの番組は、いったんHDDに録画した後、Blu-ray DiscやDVDなどへのコピーを9回までできるようになる。私的録音録画補償金の扱いをめぐり二転三転したダビング10は、当初開始予定だった6月2日から約1カ月遅れで実現し、北京五輪商戦にもギリギリ間に合う形での決着となった。

 ダビング10の実施は、情報通信審議会 情報通信政策部会 デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(デジコン委)が2007年7月12日の会合で決定。実施スケジュールなどの詳細は、デジコン委での承認を経てDpaが決めることになっており、それを基に電波産業会(ARIB)による規格策定、各放送局による放送設備の改修、各メーカーによる対応機器の開発・アップデートなどが順次進められる。

 2007年7月12日のデジコン委では、従来の「コピーワンス」を緩和する形でダビング10の導入を決めると同時に、テレビ番組などの制作者(クリエイター)に対する適正な対価の還元が必要であるとした。これについて権利者側は、現行の私的録音録画補償金制度を維持するよう要求。運用に課題が多い同制度を廃止し、デジタル著作権管理(DRM)による個別課金に移行すべきとするメーカー側と鋭く対立していた。Dpaは2008年2月19日のデジコン委において、ダビング10を「同年6月2日午前4時に始める」との方針を明らかにしていた。しかし、私的録音録画について検討している文化審議会 著作権審議会 私的録音録画小委員会(私的録音録画小委)において、同年5月まで権利者側とメーカー側の対立が解けず、ダビング10の開始を最終決定できない状況が続いていた。

 事態を打開するため、2008年5月から経済産業省、総務相、文化庁(文部科学省)が協議を開始。その後、「暫定的な措置として、Blu-ray Discを私的録画補償金の対象に追加する」という各省庁の共同案を作成し、甘利 明経産相が同年6月17日の定例会見で明らかにした。私的録音補償金と私的録画補償金の議論を分離した上で、主に地デジの録画に使われるBlu-ray Discへの私的録画補償金の賦課を明記することで、ダビング10の合意を目指すという案である。

 メーカー側はこの共同案に賛意を表明。一方の権利者側は当初、「この合意がダビング10の議論を前進させるものではない」と表明していたが、6月19日のデジコン委において権利者側委員が譲歩を表明、ダビング10の実施が確定した。権利者側にとっては、主に地デジ番組の録画に用いられるBlu-ray Discへの補償金課金により、「クリエイターへの適正な対価の還元」という主張がある程度配慮されたことに加え、補償金制度の維持とダビング10の実施がセットになった状態では、権利者側の主張が世論の理解を得られにくいと判断したとみられる。

 ダビング10の決着により、今後の焦点はBlu-ray Disc以外の私的録音補償金の見直しに絞られる。私的録音録画小委では、補償金制度を段階的に縮小・廃止する方針で既に合意しているが、それまでの当面の運用について権利者側とメーカー側で意見の対立がある。文化庁が5月8日の会合で示した案は、権利者側の主張に沿う形で、米アップルの「iPod」などの携帯音楽プレーヤーやHDDレコーダー、HDD内蔵テレビなど対象機器を追加する内容となっている。これに対しメーカー側は、対象機器の増加に伴い「段階的に縮小・廃止」という方針に反して補償金制度が今後拡大される可能性や、HDDなどの汎用機器に補償金が賦課されることで将来的にパソコンなどへ補償金が適用される可能性について懸念し、強く反発している。

 私的録音録画小委での補償金見直しは、当初の予定では2007年末までに結論を出す予定だったが、こうした対立により意見の一本化ができず現在に至っている。ダビング10の実施日が6月2日と設定されていたことにより、ダビング10の前提と権利者側が位置付ける補償金についても6月2日までに結論を目指そうという動きもあった。しかし、ダビング10をめぐる議論が補償金と切り離されて合意に至ったことで、補償金をめぐる対立について早期に結論を見出すのは、逆に困難な状況となっている。