Google Chromeが単なるWebブラウザーではなく、Webアプリケーションプラットフォームとして位置づけられる技術的特徴を前編に引き続き見ていこう。

JavaScript実行速度が高速

 Chromeのもう一つの大きな特徴は、JavaScriptプログラムの高速実行にこだわっていることだ。

 Chromeは「V8」と呼ぶJavaScript処理系を搭載する。最新のWebブラウザーは、Firefox、SafariなどJavaSciriptプログラム実行速度を大幅に向上させているのだが、Chromeは先行する最新ブラウザーと比べてもさらに高速だ。

 V8が高速な理由はいくつかある。JIT(ジャスト・イン・タイム)コンパイラーと呼ぶテクニックを用いて、JavaScriptプログラムの高速化を図っている。JavaScriptのプログラム・コードを、読み込むなり即座に機械語に翻訳してから実行するという仕組みである。さらにマルチコアCPUに対応している。ただ、これらの技術的な工夫はいずれ他のブラウザーの開発チームも取り入れるだろう。

 グーグルの開発者Alexander Limi氏のBlogによれば、SunSpider0.9ベンチマーク(JavaScript実行速度を調べるベンチマーク・テスト)で測定したGoogle ChromeのJavaScript実行速度は、Firefox3に比べ2.06倍、Safari4に比べ1.88倍、Firefox nightly Buildに比べ1.44倍の速度となっている。

 SunSpider0.9ベンチマークはWebで公開されており、手軽に試すことができる。筆者の手元のWindows XP搭載パソコンで試したところでは、Google ChromeのJavaScript実行速度はSafari for Windows 3に比べ1.96倍、Firefox2.0.0.16に比べ6.33倍、Firefox3.0.2に比べ1.50倍、IE7に比べると12.52倍、高速との結果が出た(図)。この結果から、Google Chromeだけでなく、最新のブラウザーではJavaSciptのスピード競争が起きていることも分かるだろう。

図 Chromeに限らず最新ブラウザーはJavaScriptの処理が著しく高速化していることが分かる
図 Chromeに限らず最新ブラウザーはJavaScriptの処理が著しく高速化していることが分かる

Google Chromeの狙いは、ブラウザー競争の促進か

 多くの業界ウォッチャーがChromeについて発言している。筆者も、Google Chromeは、単に「マイナーだけど高速なWebブラウザー」というだけでは済まされない何かをもっていると考えている。ここでは筆者が重要だと感じる点を2点、指摘しておきたい。

 1点目に、Chromeはブラウザー分野の技術水準を高める刺激となるだろう。タブごとに分離したプロセス・モデルや、高速JavaScriptエンジンなどは、IEやFirefoxのブラウザー開発チームに大きな刺激を与え、競合する何らかの機能が開発される可能性がある。例えば、Chrome登場以前からJavaScriptエンジンの高速化の競争は激しかったのだが、Chromeのデビューによりさらに競争が加速される方向に向かうだろう。この競争により、将来のブラウザーは軒並み高速なJavaScriptエンジンを搭載するようになり、グーグルのサービス群もこれら高速なJavaScriptエンジンを前提とした形に進化するだろう。

 JavaScriptは、その名称のように「スクリプト言語」と呼ぶジャンルのプログラミング言語である。スクリプト言語というと、本格的なアプリケーション構築には適さないという印象を持たれるかもしれない。しかし、他のスクリプト言語の例を見ると、PerlRubyのようにもともとスクリプト言語として作られたプログラミング言語が、CPUの高速化、メモリー搭載量の増大により、多くのWeb上のサービスで、本格的なアプリケーション構築言語として使われているという経緯がある。JavaScriptも、今後の処理系の高速化により、より利用範囲を広げていく可能性が大きい。グーグルがChromeでJavaScript処理系の高速化にこだわっていること自体、グーグルの将来にとってJavaScriptが重要であることを示している。

 2点目は、パソコンの中でもローエンドに属するNetBookや、パソコン以外の端末、特にスマートフォンなどのためのブラウザーとして、Chromeを展開する可能性があるのではないか、ということだ。実際、Chromeのシンプルなユーザー・インタフェースは、高解像度のPCでも有効だが、ディスプレイサイズが小さいNetBookや、あるいはスマートフォンでより有効となるだろう。グーグルはスマートフォン用のOSであるAndroidを発表済みである。そこにChromeが搭載されることは、十分にありそうなことだ。実際、同じWebKitベースのSafariが、アップルのiPhoneにも搭載されている。

 Chromeは、グーグルが望んでいるブラウザーの未来を見せてくれる製品といえる。グーグルは、IEやFirefoxを脅かして主導権を取ろうとまでは考えていないかもしれない。だが、そうだとしてもChromeはIEやFirefoxの未来にも影響を与えるだろう。その終着点としてブラウザーは、HTML、CSS、JavaScriptというWeb標準技術をより軽快に、高速に実行するプラットフォームとなっていくと考えられる。