「ウイルスバスター」ブランドで知られるトレンドマイクロは、1988年8月の創業(会社設立は1989年)。コンピューターセキュリティの分野で、米シマンテックや米マカフィーなどと並び世界大手の一角を占める。
 共同創業者であり、代表取締役社長兼CEOを務めるエバ・チェン氏は、長年にわたって技術の変化を最前線で見てきた。インターネットが普及し、セキュリティ上の脅威は一部のコンピューター専門家だけでなく、パソコンやスマートフォンを利用する一般のユーザーにまで幅広く及ぶようになった。セキュリティ対策の潮流や、技術者の倫理に関する危機感について聞いた。

■長くセキュリティ業界に身を置いています。

 私は米国でコンピューターソフトウエアの技術を研究していて、それを元にトレンドマイクロを創業してから25年になります。学生として研究活動をしていた頃から数えるとほぼ30年になります。

 振り返ってみると、とてもエキサイティングな30年でした。コンピューター自体はそれ以前からありましたが、人類の長い歴史全体で見ても、最もコンピューター技術が進化した時期ではないでしょうか。当時は、デスクトップコンピューターでもキロバイト単位の記憶容量しかありませんでした。それが、今では手のひらに収まるスマートフォンにギガバイト単位のデータを保存できます。これだけでも進化の大きさが分かります。

■30年間でセキュリティの脅威はどのように変化しましたか。

 創業したばかりの頃にコンピューターセキュリティの脅威になっていたのは、“世界初”のコンピューターウイルスだといわれる「CBRAIN」です。コンピューターのハードディスクドライブに常駐して、データを破壊するものです。ただし、CBRAINの感染経路はフロッピーディスクに限られていました。

 最初の大きな変化は、ネットワーク化です。LANが普及し始めた1992年ごろに問題となったのは「エルサレム(Jerusalem)」ウイルスなどLAN上で感染が広がるタイプのものでした。

 その後インターネットが普及すると、今度はLANの枠組みを超えてウイルスが拡散するようになりました。1999年ごろから流行した「メリッサ(Melissa)」は、インターネット上の電子メールを通じて広がりました。

 ここ最近の重要な変化が「クラウド」と「モバイル」です。2000年代半ば以降のクラウドコンピューティングの普及によって、ネットに接続するだけでさまざまなサービスを利用できるようになりました。

 一方で、セキュリティの観点から見れば、個人情報や決済情報などの膨大なデータが1カ所に集中してしまいます。それ以前のウイルスはデータを破壊したり、コンピューターをダウンさせたりするのが目的でした。今ではデータを盗み出す方が主流になっていて、深刻さの度合いが増しています。