はやしや・ひこいち:1969年7月3日、鹿児島県生まれ。1989年、国士舘大学文学部地理専攻科中退後、初代林家木久蔵(現・林家木久扇)へ入門。前座名「きく兵衛」。1993年に二つ目に昇進し、「林家彦いち」に改名。2002年春に真打に昇進する。「NHK 新人演芸コンクール 落語部門 大賞」「彩の国落語大賞」など受賞多数。(撮影:陶山 勉)
はやしや・ひこいち:1969年7月3日、鹿児島県生まれ。1989年、国士舘大学文学部地理専攻科中退後、初代林家木久蔵(現・林家木久扇)へ入門。前座名「きく兵衛」。1993年に二つ目に昇進し、「林家彦いち」に改名。2002年春に真打に昇進する。「NHK 新人演芸コンクール 落語部門 大賞」「彩の国落語大賞」など受賞多数。(撮影:陶山 勉)
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 360度、高座を取り囲むディスプレイ。絶え間なく流れる映像を背景に、噺(はなし)を進める。その様子は、ライブ配信サービス「ニコニコ生放送」で放映され、書き込みという形で、ユーザーの反応がリアルタイムで返ってくる──。落語とITとの融合にいち早く挑むのが、林家彦いち氏だ。

 落語はもともと、客が頭の中で情景を思い浮かべながら聞くものだ。彦いち氏はあえて、そこに映像を持ち込んだ。ただし「豊かな人間の想像力を損なうやり方は駄目。噺の内容をただ見せるだけでは意味がない」。目指すのは、映像の力で新たな笑いを生むこと。例えば主人公が天国に行く場面。とぼけた風貌の“神様”が映像で現れ、主人公とひょうひょうとした会話を交わす。神様の風貌が具体的に見えることで、その発言の味わいが増し、客の笑いをいっそう誘う。

 噺をする相手がネットの向こうにいる、というのも新しい。ただ実際に高座に上がってみると、寄席で目の前の客に向かって話すのと、どこか似ていたという。「落語は、お客さんと落語家とが1対1の関係を築くもの。お客は、それぞれに想像をふくらませ、噺を味わってくれる。ネットユーザーとの関係性は、それに近かった」。

新たな取り組みの舞台となったのは、WOWOWが放映する番組「RFC 落語ファイトクラブ」。複数の落語家が笑いをめぐってバトルを繰り広げるもので、過去2回放映。いずれも、彦いち氏が企画から関わっている。写真は、第2回で映像を背に噺をする同氏
新たな取り組みの舞台となったのは、WOWOWが放映する番組「RFC 落語ファイトクラブ」。複数の落語家が笑いをめぐってバトルを繰り広げるもので、過去2回放映。いずれも、彦いち氏が企画から関わっている。写真は、第2回で映像を背に噺をする同氏
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主人公が天国に行き、“神様”と言葉を交わしているところ。神様の風貌が、会場の笑いをさらに誘う
主人公が天国に行き、“神様”と言葉を交わしているところ。神様の風貌が、会場の笑いをさらに誘う