ネット上の専用ページやエディターを開いて数行のプログラムを打ち込めば、Webブラウザー上でキャラクターが動き出す。ちょっとコツをつかめば、すぐに簡単なゲームが作れる。完成したゲームはHTML5ベース。思うがままに自分だけの作品を作り、誰かを楽しませる。そんなプログラミングの醍醐味を手軽に味わえるゲーム開発エンジン「enchant.js」がITや技術に興味がある若者たちを引き付け、ブームを引き起こしている。開発したのはある1人の大学生で、若手プログラマーが集う「ARC(秋葉原リサーチセンター)」のメンバーである。その仕掛け人がユビキタスエンターテインメント社長の清水亮氏。ARCの中心的なメンバーで、HTML5のゲーム投稿サイト「9leap」を運営している大学生の伏見遼平氏と共にenchant.jsの開発エピソードやARC設立の狙いを聞いた。

■「enchant.js」の開発に至るまでの経緯を教えてください。

清水氏:そもそものきっかけは伏見遼平君に出会ったことです。2010年末、大学のサークル活動で本を書くという理由で伏見君からインタビューの申し込みがありました。引き受けてみると、私の会社であるユビキタスエンターテインメント(以下、UEI)のことを驚くほど勉強していました。

 私のブログも含めてすべて事前に調査してきているから、聞くことがない。その代わりに「こう思うんです」と伏見くんがしゃべり続けたのです。2時間じゃ足りなかった。そこまでUEIのことを理解しているのなら、ここに来ないかと声をかけたのです。

 ちょうど最近は若い人の取り込みが十分ではないなと思っていたところでした。伏見君に出会ったことがきっかけで、将来有望な若者を集めて何か面白いことをやろうと考えました。そこでARC(秋葉原リサーチセンター)を設立したのです。enchant.jsはARCに集まった学生たちが作り上げたものです。

若者の「知らない」は大きな力

■ARCとは何をする組織なのでしょうか。

清水氏:世の中には頭は良くて優秀でも、得意分野を見つけることができず、くすぶっている学生がたくさんいます。そんな若者にプログラミングの課題を与え、ときにはプロジェクトの運営を任せることで育成するのです。私の経験を背景として、うまくいった方法はこうだよと伝える。当時とは時代が違うし、私の場合はたまたま運がよかったのかもしれない。それでも、全く手がかりがないところから始めるよりも、プラスになるはずです。

 私はある大学院で講師をしていますが、大学というシステムを通して、私と同じ考え方を共有できる若者を育成をすることは難しいと感じていました。そんなことをしなくても、私がブログを書いていれば、それを読んで勝手に勉強をする人がいる。伏見君と出会うことで、それを現実に目の当たりにしたのです。

 そうした経験から、単に正社員やインターンを採るよりも新しいことをやったらどうかと考えたのです。実際、ARCに集まる若者に何かをやらせると、飛躍していくことが分かります。未知・未経験ということは、ものすごいパワーを持っています。普通の大人が尻込みをすることを、考え込まずにやってしまう。知らないことは力なのです。

 ARCの中では、私から何をやれとは言いません。その代わりに、何をやりたいかと聞き出します。義務ではないけど、やるといったことは最後までやってもらう。大事なのは何をやるか。結果がうまく伴わなかったとしてもプロセスが正しければいい。そうすれば、次に新しい価値を生み出せるからです。

 ARCに所属している学生が必ずしもUEIに就職する必要はないと考えています。活躍する場所は社外でもかまいません。別の場所で活躍してくれればいいのです。若者は、一所にいてくれるわけではなく、いつか自由な空に飛んでいってしまうものだからです。

ユビキタスエンターテインメントの清水亮 代表取締役社長兼CEO。2005年に情報処理推進機構から天才プログラマー/スーパークリエイターとして認定を受ける。モバイル分野を中心にソフトウエア開発事業を展開する(写真:稲垣 純也)
ユビキタスエンターテインメントの清水亮 代表取締役社長兼CEO。2005年に情報処理推進機構から天才プログラマー/スーパークリエイターとして認定を受ける。モバイル分野を中心にソフトウエア開発事業を展開する(写真:稲垣 純也)
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ユビキタスエンターテインメントの秋葉原リサーチセンター(ARC)で9leapプロジェクトリーダーとして活躍する伏見遼平氏
ユビキタスエンターテインメントの秋葉原リサーチセンター(ARC)で9leapプロジェクトリーダーとして活躍する伏見遼平氏
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