現代のビジネスパーソンは、日々の業務の大半をパソコン上でこなしている。その一方でスマートフォンやタブレット端末のほかWebサービスの普及により、いつでもどこでも各種の情報にアクセスできる環境が整った。自分の情報をいかに管理し、必要なときに自由に引き出すか。『「超」整理法』で知られ、2011年11月に新刊『クラウド「超」仕事法』を著した野口悠紀雄氏に、スマートフォン時代における新たな情報整理の考え方を聞いた。
■2008年に刊行した『超「超」整理法』ではGmailなどを活用したデジタルデータの管理法を紹介されました。それから3年が経過し、デジタル技術で情報を管理をするための環境にどのような変化があったと感じていますか。
スマートフォンに加えてiPadなどのタブレット端末が登場し、インターネットを手軽に活用できるようになったことが大きい。通信環境も整備されつつある。それに加えて、クラウドサービスが大きく浸透した。2008年に『超「超」整理法』を書いたときには、クラウドという言葉を知らない人が多かったため、本のタイトルには「クラウド」と入れず、章のタイトルに「近づくクラウド・コンピューティング」と入れるだけにした。現在では、新聞でクラウドという言葉を毎日のように見かける。
それにもかかわらず、現実には、クラウドやスマートフォンを活用するメンタリティー(意識)を持っていない人が多い。リテラシーがないというより、メンタリティーがないのだ。「携帯電話で十分だし、ワンセグやおサイフケータイを使っているから、それらの機能を搭載していないスマートフォンは使う必要がない」と考えている。
クラウドサービスを利用することに消極的な企業や組織も多い。「自分で用意したシステムを利用するのであれば安心できるが、大事なものを他人に預けるのは怖い」という心理の表れだ。私は、こうした心理を「グーグルフォビア(恐怖症)」、あるいは「クラウドフォビア」と呼んでいる。
手元にデータをためる動物的本能を克服せよ
■実際には企業のサーバーから情報を盗まれ、個人情報が流出するという事件も発生しています。
グーグルのシステムは、世界で最も安全性が高いシステムだ。実際、これまで重大な事故を起こしたことがない。企業が自前で運用するサーバーと比べれば、攻撃を受ける可能性は全く違う。巨大隕石などでグーグルのデータセンターが壊滅的な被害を受ければ話は別だが、そんな事態になれば、世界の終焉(しゅうえん)だから、データも必要なくなる。
グーグルがデータを悪用するのではないかと恐れている人もいる。私も昔はそう考えていた。しかし、グーグルが不正を働けば、信頼を失い、グーグルの存立にかかわる重大な損害を被る。その半面で、私の情報を不正利用したところで、グーグルにとってはほとんど利益にならない。両者を比較すれば、グーグルが私の情報を悪用しないことは明らかだ。
恐怖症は、「大切なものは自分の手元に置きたい」という動物的本能に起因する。犬が土を掘って骨を隠すのと同じである。動物的本能を克服した者だけが成功するのが、現代社会だ。だから、情報を「ため込むな、クラウドに上げよ」と主張したい。