長きに渡り、「ドラフト」のままだったIEEE 802.11nが、やっと決着する。2009年9月にはIEEE(米国電気・電子学会)が規格を最終決定する見通しだ。これを受け、無線LAN機器の認定作業などを行う業界団体Wi-Fiアライアンスは、11n正式規格に対応する機器の認定を開始する。ただし、これまでに同団体が11nドラフト2.0に準拠していると認定した製品は、そのまま11n正式規格の認定製品として扱う方針だ。これでユーザーが安心して使えるようになった11n。今後の用途はどう広がるか。また、次の注目技術は何か。Wi-Fiアライアンス マーケティングディレクター ケリー・デイヴィス・フェルナー氏に話を聞いた。

■11nの正式規格に基づく認定が9月から始まりますが、既存の11nドラフト2.0対応製品はそのまま11n対応と認められることになりました。それはなぜでしょう?

 11nドラフト2.0対応製品と正式規格対応製品の間で、相互接続性に問題がないと判断したからです。最終承認されるに当たり、11nの規格自体にはより多くの機能が含まれるようになりました。今後登場する製品には、これらオプション機能を持つものがたくさん出てくると思います。そのため、Wi-Fiアライアンスの認定テストの項目にも、オプション機能に関する項目を追加しました。ただ、11nドラフト2.0の核となった部分は、11nでも重要な部分ですし、相互接続性という観点ではこれらに大きな違いがありません。ドラフト2.0の段階で認めたものは、11n正式製品として扱っても問題ないと判断しました。

■11nが一段落して、Wi-Fiアライアンスの次のトピックはDevice to Deviceだと聞きました。Device to Device技術について教えてください。

 Device to Device技術(Wi-Fi Peer-to-Peerとも呼ぶ)は、IEEE802.11a/b/g/nの技術を使い、機器同士を接続するソリューションです。例えば、デジタルカメラとプリンターを直接つないで、カメラからプリンターに写真を転送、印刷したり、携帯電話内の写真をテレビに転送して表示したりできます。2009年中に仕様を完成させ、2010年には認証テストを開始する予定です。

■Bluetoothや従来からある無線LANのアドホックモードと似ているように思いますが、どのような違いがあるのでしょうか?

 無線LANを使ったDevice to Device技術はBluetoothよりも完璧なソリューションだと思っています。IPベースなので汎用性が高いですし、ゲームやデジタルカメラ、プリンターなど既に多くの機器に無線LAN機能は組み込まれています。Bluetoothのように、機能を追加する必要はありません。また、無線LANですから電波が届く範囲も広い。家全体をカバーできます。これもBluetoothと比べた利点です。接続にはWPS(Wi-Fi Protected Setup)を使いますから、設定も簡単です。

 無線LANには以前からアドホックモードもありますが、遅い伝送速度でしか対応していません。新しいDevice to Device技術は11nをサポートしますから、動画やゲーム、音声などの大容量アプリケーションがやり取りできます。

■無線LAN機能を組み込んだ機器が多いのが利点ということですが、現行の機器でもDevice to Deviceでつながるということですか?

 はい、Device to Deviceに対応した機器と組み合わせることで使えます。相手側がDevice to Deviceのプロトコルを実装したファームウエアやアプリケーションを搭載していれば、現行の製品ともつながりますよ。実際、あるベンダーはDevice to Deviceに対応した機器と、私が使っている携帯電話をその場でつなぎ、私の携帯電話で撮影した画像をその機器に映し出すというデモをしました。もちろん、私の携帯電話にDevice to Deviceの機能は付いていません。でも問題はありません。

■無線技術はたくさんあります。これからはそれらを使い分ける時代になりそうです。

 そうですね。無線にはいろいろな技術がありますが、お互いに補完し合うものだと思います。例えば、Bluetoothは伝送速度が速いけれど、遠くまでは届かない。WiMAXや携帯電話の技術は届く範囲は広いけれど、速度はあまり速くない。無線LANはその中間です。将来的には、ユーザーが意識しなくても、環境や電波の強さ、利用するアプリケーションなどによって、機器が自動で最適な無線技術を選んでくれるようになるでしょう。