未来学という学問分野がある。科学・政治・経済などすべてをひっくるめて未来の人類社会がどうなっていくかを考察する学問だ。今は下火になっているが1960年代から80年代にかけては大変盛んだった。

 1980年、未来学者のアルビン・トフラー(1928~)は「第三の波」という著書を世に問い、人類の歴史に起きた大きな変革を3つに分けるという説を提示した。

トフラーの主張する3つの波

 第一の波は、狩猟採取から農耕への農業革命だ。農業を始めることで人類は安定して食料を手に入れることができるようになり、人口がが増え始め、多くの人間が組織的に動く古代国家が成立した。第二の波は産業革命である。石炭、石油と行った自然が蓄積したエネルギーを利用することで農耕社会は産業社会へと変貌し、民俗から国家のレベルに至るまの人間社会すべてに渡る変革が起きた。

 そしてトフラーは、「いまや第三の波がやってきている」と説いた。第三の波はトフラー自身の造語を使えば「脱産業社会」だ。それを支えるのは、20世紀に入ってから発展した科学に基づいた技術である。トフラーは量子電気工学、情報理論、分子生物学、海洋学、核工学、生態学、宇宙科学などを列挙する。なかでも大きな影響を社会に与えるのは、量子力学に立脚した半導体エレクトロニクスと情報理論、つまりはコンピューターとネットワークだ。この視点に基づいて、トフラーは生産者であり同時に消費者でもある“プロシューマー”という人々の出現や、雇用の流動化、ニッチ市場の顕在化、さらには国家の衰退と超国家的規模の企業の伸長などを予測した。

 「第三の波」出版から34年を経た現在から振り返ると、トフラーの主張した「第三の波」とは、情報革命そのものだったと言えるだろう。過去30年で、ムーアの法則が示す半導体の急速な進歩と、パケット伝送技術により成立したインターネットとが、世界のありようを大きく変えた。

 「第三の波」の予測には当たった部分も外れた部分もある。それでも、1980年の段階で「今起きていることは、農耕の開始や産業革命と同等の変革だ」と見抜いたトフラーは大変な慧眼の持ち主だと言えるだろう。

 さて、ここからが今回の本論だ。前回のラストで指摘した自律機械の普及は、「第4の波」とは言わないまでも「第3.5の波」と言えるぐらいには、大きな変革なのではなかろうか。

 それは、明らかにムーアの法則の示す半導体技術の進歩によってもたらされたものだ。正確にはもう一つ、電池技術の進歩も大きく寄与している。内燃機関より制御特性に優れた電動モーターが、電池技術の進歩によって自動車のようなより大きなエネルギーを必要とする機器でも使うことが可能になった。電池技術の基本は材料技術であり、その根底には量子力学が存在する。だから、これをトフラーのいう「第三の波」に含めても矛盾はない。

 しかし、自律機械は、社会の中での在り方がそれまでの機械と異なる。外界を認識して、状況に応じた動作が可能な自律機械は、従来人間が行ってきた労働をある程度代替しうる。前回述べた通り、人は所有できないが機械は所有できる。自律機械を所有しているか否かで、大きな経済格差が社会に発生する可能性が出てくる。