政府は2013年6月14日に「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定しました。これを受けて「新戦略専門調査会」が発足しました。同専門調査会には8つの分科会が設置され、その1つである「人材育成分科会」の第1回会合が、2013年10月30日に開催されました。これから、人材育成や教育の面におけるIT利活用に関する調査・検討が行われます。

 今回は、我が国のIT総合戦略に位置付けられた教育の新しい方向性について読み解きます。

「人材育成分科会」の3つのミッション

 世界最先端IT国家創造宣言とは、内閣に設置された「IT総合戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)」が策定したものです。この宣言では、「利活用の裾野拡大を推進するための基盤の強化」として「人材育成・教育」という項目を挙げています。

 この中で「教育環境自体のIT化(ソフト・ハードを含むインフラ)、国民全体のITリテラシーの向上、国際的に通用しリードする実践的な高度IT人材の育成(人材育成・教育レベル)及び教育内容の面での情報教育の推進(レベルに応じた教育内容)を検討し、必要な施策を実行する必要がある。」とし、具体的な施策とスケジュールを明示した「IT人材強靭(じん)化計画」(仮称)を年内に策定した上で、それに従って速やかに実行に移すとしています。

「世界最先端IT国家創造宣言」の一部。「IT人材強靭化計画」を年内に策定し、それに従って速やかに実行に移すと記されている
「世界最先端IT国家創造宣言」の一部。「IT人材強靭化計画」を年内に策定し、それに従って速やかに実行に移すと記されている
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 具体的には、以下の3つの取り組みが推進されます。

(1)教育環境自体のIT化
 学校の高速ブロードバンド接続、1人1台の情報端末配備、電子黒板や無線LAN環境の整備、デジタル教科書・教材の活用等、初等教育段階から教育環境自体のIT化を進め、児童生徒等の学力の向上とIT リテラシーの向上を図る。
 あわせて、教える側の教師が、児童生徒の発達段階に応じたIT教育が実施できるよう、IT 活用指導モデルの構築やIT活用指導力の向上を図る。そのため、指導案や教材など教師が活用可能なデータベースを構築し、府省の既存の子供向けページも教材等として整理し、積極的に活用する。また、企業や民間団体などにも協力を呼びかけ、教育用のデジタル教材の充実を図る。
 これらの取組により、2010年代中には、全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で教育環境のIT化を実現するとともに、学校と家庭がシームレスでつながる教育・学習環境を構築する。
 また、新しいモノづくりであるデジタル・ファブリック(3Dプリンター等)やロボッティックス、プログラミング、情報セキュリティ、コンテンツ作成等、学生等が、将来を展望した技術を習得できる環境整備を教育環境のIT化とともに進める。

(2)国民全体のITリテラシーの向上
 インターネットの普及に加え、スマートフォン等の急速な拡大により、国民全体としてITに触れる機会が増大していることを踏まえ、ITの利活用により、子供から高齢者まで、そのメリットを享受して豊かに生活を送ることができるよう、情報モラルや情報セキュリティに関する知識を含め、国民全体のITリテラシーの向上を図る。
 このため、子供から学生、社会人、高齢者に至るまで、そのリテラシーの現状も把握しつつ、年代層別に、ITに関する知識を身に付けるための取組を推進する。
 また、遠隔教育等ITの利活用により、離島を含め全国津々浦々で、全ての国民が地理的・時間的制約を受けることなく自由に学べる環境を整備する。

(3)国際的にも通用・リードする実践的な高度なIT人材の育成
 イノベーションの鍵を握るのは人材であり、社会的課題の本質を掘り下げてITの利活用による解決策をデザインできる、ITの利活用をけん引する高度なIT人材の育成が必要である。また、このような高度なIT人材を育成するためには、実践の中で技術を習得させることが重要である。
 このため、初等・中等教育段階からプログラミング等のIT教育を、高等教育段階では産業界と教育現場との連携の強化を推進し、継続性を持ってIT人材を育成していく環境の整備と提供に取り組むとともに、分野・地域を越えた全国的な実践教育ネットワークの推進やインターンシップ等を含め、実践的な専門教育プログラム等を構築する。あわせて、企業においても、期待されるスキルの確保とそれに見合った魅力的なキャリアパスによる実践的な人材育成モデルの構築が必要である。
 なお、IT人材のスキルを共通尺度で明確化するスキル標準を、ITの技術変化等を踏まえて適切に整備・活用することも重要である。
 また、起業意識を醸成するイベントやプロジェクト等を通じて、IT・データを活用した起業や新サービスの創出を担う、先端人材の発掘・支援を進める。
 さらに、産業界と連携し、ユーザー・ベンダー間を始め、産業間での人材の流動化や職種転換を容易にする様々な環境整備を進めるとともに、IT産業全体の魅力向上を図ることも必要である。

「世界最先端IT国家創造宣言」より引用