「レーシック」という単語は、かなり一般に浸透したように思います。「Laser assisted in situ keratomileusis」の略称でLASIK。レーザーによる屈折矯正手術のことです。

 目に入る光は、一番表面にある透明な角膜と、眼球内のレンズ(水晶体)で屈折して焦点を結びます。このどちらかに手を加えることで屈折度数(近視あるいは遠視)を変えることができるわけです。

 屈折を矯正する方法として角膜に手を加える手術はかなり昔から行われていました。角膜に放射状に切開を加える「Radial Keratotomy」から始まり、エキシマレーザーが出てきてからは角膜の一定量を削ることにより度数を変えることができるようになりました。ただ、レーザーで削る方法の1つ「Photo Refractive Keratectomy (PRK)」と呼ばれるものでは、角膜の上皮も含めてレーザーで削るため、手術後に痛みが出ること、視力の回復が不安定であること、時に濁りが出てしまうことがあります。このため、現在は角膜の中だけにレーザーを当てる方法、レーシックが主流となっています。詳しくは実際に手術を行っている施設がWebサイトなどに情報を載せていますので、興味ある方は参照してください。ここではレーシックの説明の簡単な絵を載せておきます。角膜の表面を切って「フラップ」と呼ばれる蓋を作り、その下にレーザー(図中赤い線)を照射して角膜の厚みを薄くし、その後フラップを元に戻す、という手術になります。痛みに敏感な角膜の表面に手を加えないため、手術後の痛みはほとんどありません。

レーシックは安全?

 レーシックを行っていた眼科クリニックの院長が逮捕されるという、眼科医の私たちには衝撃的な事件が数年前にありました。そのときの報道によると、経費節約のために手術器具などを滅菌しないで使い回して感染症を起こしたとのことです。この眼科の場合、ルールを守っていなかった、またいったん感染症が発生し始めても対策をすぐに講じなかったわけで、医師としてはあってはならない行為です。

 一方で、どんなに注意を払い、ルールを守っていても、感染症は何パーセントの割合で起きてしまうものです。レーシックよりも多く行われている白内障の手術でも時に失明にいたる感染症はゼロにはできません。感染症を減らす対策は常に検討されていますし、数多く行われている手術の場合いろいろな合併症の割合は世界的に報告されていますので、それより多く起きる場合には何か原因があると医療現場では考えて行動を起こすのが普通です。

 と、脅すようなことを書いてきましたが、患者さんに「レーシックって安全なんですか?」と聞かれれば、「安全ですよ。でも手術ですので、一度受けてしまうと元に戻すことはできません。メガネやコンタクトレンズで困っていないのであれば受ける必要はありません」と私は答えています。

 白内障はメガネの度を変えたりしても視力が出ない状態になりますので、手術を受ける意味は大きいものです。が、レーシックはメガネやコンタクトレンズで視力が出る目に手術をするわけなので、ちょっと意味合いが異なります。ならコンタクトレンズの方が安全かというと、これまた失明にいたる感染症もありますので一概には言えません。どちらかというとユーザー数が多いこともあり、私が今までに見た大きなトラブルはコンタクトレンズユーザーが圧倒的に多いです。私が(積極的に)レーシックを勧める患者さん、というのは、たびたびコンタクトレンズでトラブルがあって受診される方です。ルールを守ったコンタクトの利用ができない方は、コンタクトレンズで失明する危険性の方が高いと考えられますので、レーシックで近視を直してしまった方が安全と思っています。きちんとレンズケアをしている方からすると信じられないような無茶な使い方をする人がいるのです。