昨年のことです。

「視力が良くなる目薬を下さい」
「ジクアホソルかレバミピドという目薬を下さい」(覚えられないのでメモ書きを握りしめた人も)

 という患者さんが、ある日どこの眼科でも突然増え、私たちはびっくりしました。これはNHKの「ためしてガッテン」で、ドライアイの治療薬であるジクアス点眼とムコスタ点眼の効果を特集したためでした。これまでの記事でも名前を出した目薬ですが、NHKなので商品名ではなく一般薬品名で放送されたのですね。

 私は放送を見ていないのですが、番組のWebサイトを見ると、ドライアイと新薬の治療効果について興味を引くようにうまーく作っているなあと思いました。タイトルは「5日でメガネいらずに!? 新・視力回復法の正体」。患者さんの多くが誤解して来院したのは、「近視が治る」「老眼が治る」と思ってのことです。残念ながら、この目薬で近視や老眼は治りません。番組の中で測っているのは「実用視力」と呼ばれるちょっと特殊な視力です。

 通常の視力検査では、指標の提示時間は3秒、5指標のうち3つ正解であれば合格。いわば視力の「最大瞬間風速」のような測り方です。ただ、日常生活では人は連続的にものを見ています。実用視力は1分間連続して視力を測る方法です。これは日常の状態に近いと言えます。ドライアイがあると、通常の視力は低下していなくても、実用視力が低下している場合があります。

 実用視力計は一般の眼科に普及していません。一部の施設に置いてありますが、わざわざそこまで測りに行く必要はありません。視力検査ではよく見えていても、見え方が不安定、見えづらい、夕方になると目がかすむ、というような不調がある場合、実用視力が低下しているドライアイの可能性があります。その場合には「ドライアイかもしれない」と眼科を受診すれば大丈夫です。

 なぜ(実用)視力が低下するのでしょうか? 目の表面には涙があります。水分だけでは広がりや安定性に欠けるため、「ムチン」という粘液物質が目の表面と涙の中にはあります。そして涙の1番表面には油の層があり、蒸発を防いでいます。簡単な図にしてみましたが、丸い粒がムチンです。ドライアイになり、水分、ムチン、油分が不足し、この涙の構造が崩れると、目の表面はデコボコ状態になり、光がきれいに目の中に入らず視力の質が落ちます。いわばすりガラスを通して見ているようなものです。デコボコになった図がうまく作れなかったので、大塚製薬のWebサイトを参照してください。

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