原子炉を運転すると、後に使い終えた核燃料が残る。使用済み核燃料には、さまざまな放射性物質が含まれており、それをどう処理するかの道筋は今も確立していない。原子力が「トイレなきマンション」と言われる所以なのだが、そもそも具体的に使用済み核燃料の何が問題で、どうしようとして、今どうなっているのかをきちんと理解している人は必ずしも多くはないだろう。今回は、使用済み核燃料の処理と、それに伴って始まった日本の高速増殖炉の経緯と現状を見ていくことにしよう。

 まず、基礎の基礎に立ち返ろう。ウランの同位体であるウラン235の原子核に中性子がぶつかってより軽い原子核とエネルギーが発生する。これが核分裂だった。おせんべいを2つに割るとき、必ず同じように2つに割れるということはない。丁度半分になるように力を入れても、どうしても大きいのと小さいのに割れることがある。これと同じで、核分裂でも原子核はさまざまな割れ方をする。そんな割れ方をするかは量子力学を使って計算できて、グラフにすると次のようになる。これはウラン235が比較的速度の遅い熱中性子で核分裂を起こした場合のグラフだ。

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熱中性子でウラン235が核分裂反応を起こした場合に精製する物質の質量数(ATOMICAより)。
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 縦軸は全生成物質に含まれる割合。横軸は質量数だ。質量数というのは、原子核の中に含まれる陽子と中性子の個数の合計だ、第1回を思いだそう。ウラン235なら235が質量数である。グラフを見ると質量数140と90付近に山があって、意外と等しい質量数で真っ二つには割れにくいことが分かる。

 生成した物質が寿命の短い放射性同位体だった場合は、どんどん崩壊して別の物質に変わっていく。だから使用済み核燃料に含まれる放射性同位体は、時間がたつほどに崩壊して少なくなっていく。最初の存在量にもよるが、半減期が十数回ほど過ぎれば、その放射性同位体はあらかた消えて、別の安定した放射線を出さない物質に変化してしまう。キセノン135は半減期9時間ほどだから、1週間もすればすべて消えてしまい、安定したキセノン131やキセノンの同位体に変化する。福島第一原子力発電所の事故で有名になったヨウ素131も半減期8日だから、3カ月もすればほぼすべてが安定したキセノン131に変化して消えてしまう。

 ここで問題になるのは、長い半減期を持つ放射性同位体だ。セシウム134は半減期2年なので、20年もすれば消える。が、これが半減期30.7年のセシウム137だと、300年かかってしまう。

 やっかいなことに逆に時間がたつにつれて増える放射性同位体もある。使用済み核燃料の中には、ウラン238が中性子を吸収して生成したプルトニウム239が含まれるが、これがさらに中性子を吸収するとプルトニウム241になる。プルトニウム241は半減期14.4年の放射性同位体だが、崩壊すればそれでおしまいではなく、半減期433年のアメリシウム241が生成する。アメリシウム241はアルファ線を出してネプツニウム237になるが、これまた半減期212万年の放射性同位体で、ごく弱いもののガンマ線を延々と放射し続けることになる。