iPadでアプリのランキングを眺めていたら、「無料で全巻! ブラックジャックによろしく」なるアプリが首位に輝いている。最近やたらと多い、“無料アプリをうたってはいるがコンテンツは有料”というアプリの類かな?と最初は疑った。けれども、カスタマー評価を見ると全巻無料で読めて感動したというコメントが多数である。

 さっそくインストールしてみた。

図1 「無料で全巻! ブラックジャックによろしく」(出所:iTunesプレビュー)
図1 「無料で全巻! ブラックジャックによろしく」(出所:iTunesプレビュー)
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 恥ずかしながら、僕は「ブラックジャックによろしく」は、なんとなくタイトルは聞いたことがあったように思うのだけれど、読んだことも、ドラマを見たこともなかった。そして、作者の佐藤秀峰さんが、映画「海猿」の原作者で、その原作が漫画であったことも、失礼ながら知らなかった。すみません……。

 「ブラックジャックによろしく」略して「ブラよろ」は、細部まで良く描きこまれた作品で、1つの命の尊さやその幸せとともに、それを妨げる社会が内包する矛盾に主人公が憤り、何度もくじけそうになりながらも、たった1人で正義を貫こうとする姿が印象的である。社会悪を仕方がないと受け入れていた人々が、主人公の新米医師である斉藤英二郎に刺激を受けて、少しずつその姿勢を変えてゆく様子も良い感じに描き込まれている。作者が、社会正義について深い関心と情熱を持っていることがよく伝わってきた。13巻全部を一気に読んでしまった。

 命の大切さについては、「海猿」にも共通する主張が見られるし、社会正義については、「海猿」のドラマや映画を製作するフジテレビに対して、たった1人で正義を貫こうとする佐藤秀峰さんの姿が主人公の斉藤英二郎と重なる。Twitterの発言を読むとなるほどという感じである。

 そんな、作品にも人格にも裏表のない佐藤秀峰さんが、自ら運営するオンラインブック作成、売買サイト「漫画 on web」において「ブラックジャックによろしく」の二次使用権を完全フリー化したのである。

 その二次使用の結果生まれたアプリが、先の「無料で全巻! ブラックジャックによろしく」だったわけで、そのアプリの存在に気づいた僕は、新しい読者となり、この原稿を書いているから、この原稿は「ブラよろ」の三次創作物になるのだろうか。