第7回から第13回まで、7回をかけて東京電力・福島第一原子力発電所で2011年3月11日の東日本大震災に発生した事故とその経過を追跡してきた。

 各種事故調査報告書によって多少の事実認定の食い違いがあるものの、すべての報告書から読み取れることは、事故といいつつ、福島第一原発で起きたことは、物理的な必然の積み重ねだったということだ。

 大きな地震が起きた。制御棒は正常に炉心に挿入されて核反応は停止した。外部からの電力供給系は切れてしまった。大地震の結果発生した大津波により、発電所は冠水し、非常用電源が使えなくなった。電力が使えなくなったため、炉心冷却系が使えなくなった。
 そして1号機の電源不要の冷却系がうまく動作しなかった。そのことに気がつくのが遅れ、核燃料は崩壊熱により融解し、圧力容器の底が抜けた。対策が遅れているうちに2号機でも3号機でも電源不要の冷却系が限界に達し、こちらでも核燃料が融解した。その過程で水素が大量発生して格納容器の外に漏れだして、次々と爆発を起こした。建屋が崩れ、使用済み核燃料プールがむき出しになった。プール内の使用済み燃料の発生する熱で、プール内の水が蒸発して水位が下がった……

 「津波の際には、低い場所は冠水し、高い場所は冠水しない」「イオンを含む水(海水)に冠水すれば、ショートが起きて電源系は使えなくなる」「反応の進んだ核燃料は崩壊熱を出し続ける」「高温になると物体は、常温では起きない化学反応を起こしたり、固体から液体へと相変化を起こす」「密閉容器内の圧力が高くなり過ぎれば、密閉は破れる」「水素ガスは分子が小さく、非常に漏れやすい」「水素は酸素と混ざって爆発的な化学反応を起こす」――どれも当たり前の物理現象であって、そこには何の不思議もない。当たり前の物理現象が当たり前に進行し、人間はそれを食い止めることに失敗したというのが、事故の実態だろう。

 科学と技術の知識を使えば、物理現象は事前に予測することができる。実際、何度か紹介したが、以下のような予測は事故前に行われていた。

 予測ができれば対策を打つことができる。福島第一原発の事故は、現実に起きた地震と津波に対して、事前の対策が足りなかったから起きた。つまりはそういうことだ。では、なぜ対策が足りなかったのか。その理由は福島第一原子力発電所の歴史の中にある。