教育界では今、これからの国際社会を生き抜く上で必要とされる「21世紀型スキル」を身に付けさせる教育が注目されている。知識を教えるのが一昔前の教育だとすると、知識だけではなく、問題解決能力や思考力、コミュニケーション能力といった新しい能力を育てるのが21世紀型スキルの教育だ。

 具体的には、国際団体である「21世紀型スキル効果測定プロジェクト」(ACT21s)が、21世紀型スキルで必要な能力を規定し、次の4つのカテゴリーに分類している。

(1)思考の方法……創造性と革新性、批判的思考・問題解決・意思決定、学習能力・メタ認知
(2)仕事の方法……コミュニケーション、コラボレーション(チームワーク)
(3)学習ツール……情報リテラシー、ICT(情報通信技術)リテラシー
(4)社会生活……市民性(地域および地球規模)、生活と職業、個人的責任および社会的責任(文化的差異の認識および受容能力を含む)

 これを見ていて、面白いことに気が付いた。実は、1996年に文部省(現文部科学省)の中央教育審議会が答申した「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の内容とそっくりなのである。「21世紀型スキル」という言葉こそ使っていないが、日本の政府も次のように述べていた。「これからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性である」。

 16年も前から国を挙げて提唱していたとは、日本も捨てたものではない。その後、この答申を受けて、学習指導要領に「生きる力」という理念が追加された。21世紀型スキルをごく簡単に言えば、「生きる力」+「情報活用能力」と言えるかもしれない。

学びが大きく変わる

 21世紀型スキルと言っても、今までの知識は不要になるわけではない。あくまでも今までの知識をベースにして、その上に新しい学びが広がるのである。教科の知識を基に児童・生徒が課題を見つけ、それについてメディアやICTを駆使して調べ、グループで検討して結論を導き、学習のまとめをプレゼンテーションしたり発表したりするのである。このような学び方は、いくつになっても、新たな課題に直面したときに、解決できる力となるだろう。
 しかし、これを実現するためのハードルは、残念ながら相当高い。具体的には3つの課題がある。

(1)1人1台のパソコン端末
(2)ICTサポーター
(3)カリキュラム開発と指導力向上

 1つめは、何と言っても、モノが必要ということ。2年前の超大型補正予算でICT関係の整備は一気に進んだが、個人の学びに対応するために、持ち運べるタブレットPCなどが1人1台必要になる。総務省のIT戦略本部では、2020年度までに児童・生徒に1人1台の端末を配布すると明記しており、文部科学省も「義務教育諸学校における新たな教材整備計画」で、ICT整備を含めた予算として年間800億円を今後10年間計上するとしている。あと8年しかないが、ぜひ実現してほしいものだ。

 2つめはサポーターの必要性だ。先日、あるICT実験研究校で、1人1台のタブレットPCを活用した授業を参観した。各クラスにはICT支援者やメーカーのサポーターが張り付き、子供の指導や機器のトラブル対応に忙しく動いていた。それを見て、「これは、教員だけではとても対応できない」と感じた。特に機器のトラブルは専門家でないと、どうにもならないことが多い。機器整備の費用は膨大だが、ランニングコストも大変な金額になるであろう。

 最後の壁が、21世紀型の授業をどうつくるかと、教員の指導力をどう向上させるかだ。従来の授業やカリキュラムを根本的に考え直さなければならない。そして、教員は新しい学びを授業にどう組み込むかを学ばなければならない。ICTをどこでどう活用するかも重要だ。抵抗を感じる教員は多いだろう。これは、お金で解決できない分、一番困難な問題かもしれない。