まずは前回のおさらいからいこう。

 福島第一原子力発電所の原子炉は、沸騰水型(BWR)だ。棒状の核燃料は水に浸かっている。稼働中の原子炉を止めるには、燃料棒の間に中性子を吸収する材質でできた制御棒を押し込む。核分裂反応はウラン235の原子核に中性子がぶつかることで起きる。制御棒が中性子を吸収してしまえば、ウラン235に中性子はぶつからなくなるので、核分裂反応は起きなくなる。
 しかし、核分裂反応で、ウラン235はさまざまな割れ方をする。割れて生成した元素の中には放射線を出す放射性同位体もたくさんある。だから、運転停止直後の燃料棒の中には、多種多様な放射性同位体が含まれていて、熱と放射線を発生している。
 放射性同位体は、放射線を出して崩壊し、別の元素に変化する。変化した先の元素も放射性同位体だったりすると、また崩壊を起こして別の元素に変化する。最終的に安定した同位体に行き着くまで、この崩壊は続く。崩壊が続く限り、放射線と熱は発生し続ける。

 さて、放射性同位体の崩壊の様子は、半減期というもので知ることができる。これは一定量の放射性同位体が崩壊して半分の量になる期間のことだ。福島の事故の時にずいぶんとニュースに登場したヨウ素131という放射性同位体の場合は、半減期がおよそ8日である。ちなみにヨウ素131はベータ線とガンマ線という放射線を出して安定しているキセノン131に変化する。

 ここで「なるほど、では16日たてばヨウ素131は全部消えて他の元素に変化するのだな」と思った方、あなたは間違っている。
 半減期は「半分に減る期間」だ。最初の8日間で半分になったヨウ素131は、次の8日間でさらに半分になる。最初の量の1/4になるのだ。24日後は1/8、32日後は1/16ということになる。
 「ええ?、そんなのおかしいよ、納得できない」と思う方は、こう考えてみよう。「放射性同位体が崩壊するというのは、原子1個ずつがコイン投げをしているようなものだ」と。

 目の前にたくさんの人が立っているところを思い浮かべよう。号令と共に全員がコイン投げをする。表が出たら立ったまま、裏が出たら座るとしよう。きちんとしたコインなら、表も裏も確率1/2で出る。どっちが出るかは運次第だ。ただし、うんとたくさんの人がいれば、ほぼ半分の人が表で残る半分が裏ということになる。
 さあ、ここで裏が出た半分の人が座った。そこでもう一度号令をかけて、残った人がコインを投げるとしよう。すると、残った人のうちの半分は表、半分は裏が出るだろう。ここで裏が出た人が座ると、立っている人は最初の1/4ということになる。
 立っている人を放射性同位体、号令を掛ける間隔が半減期、と考えると、半減期の「半分、また半分」という減り方が理解できるだろう。事の本質は、コイン投げ、つまり放射性同位体の崩壊は確率的現象だというところにある。
 放射性同位元素の崩壊を理解したあなたは同時に、指数という重要な数学的概念の理解の入り口に立っている。
 ワンステップごとに半分、半分のような変化の仕方を指数という。変化の仕方は別に半分でなくても構わない。ワンステップごとに、2倍、2倍、でもいいし10倍、10倍でもいい。整数である必要もない。1.7倍でもルート2倍でも1/3倍でもいい。実はe=2.71828183……という数字が存在する。eは円周率πと同じく、小数点以下が無限に続く数だが、自然の法則では「ワンステップごとにe倍、e倍」という関係がとても重要だったりする。eは「自然対数の底」と呼ばれる。科学の分野ではπと同じぐらい特別で大切な数だ。
 まあ、とりあえずは、「ワンステップごとに何倍、何倍」というのが指数の基本で、これは自然界においてとても大切な関係だ、という程度に覚えておこう。