東日本大震災の復興財源として取りざたされていたタバコの増税が取りやめになったようだ。民主党政権が増税案を示したところ、自由民主党と公明党が反対し、国会運営を円滑にしたい民主党が応じたという流れである。代わりに所得税増税が検討されるという。どっちにせよ増税なら、非喫煙者の私としては、「税金ならタバコから取ってくれ」と言いたいが、喫煙者にすれば「昨年増税したばかりなのだから勘弁して欲しい」と思うだろう。

 自民・公明の反対については早速、票田としてタバコ農家を抱える自民党の党利党略という話が出ている。自由民主党税制調査会長の野田毅衆議院議員は、日本で最もタバコを多く生産している熊本県出身で、一貫してたばこ税引き上げに反対してきたという経緯も「党利党略だ」という印象を強くしている。

 その一方で、タバコの需要は確実に落ちている。日本人の喫煙率は一貫して低下し続けている。JT調べによる成人喫煙率によれば、1965年(昭和40年)には男性の82.3%が喫煙していたのに対して、1990年(平成2年)には60.5%、2000年(平成12年)には53.5%になった。先だって発表された2011年の最新調査では男性の喫煙率は33.7%、女性は10.6%、男女合わせると21.7%となった。人数では2279万人。これは過去最低である。

 9月には日本たばこ産業(JT)が需給調整のため、タバコ栽培をやめる「廃作」農家を募集したところ、熊本県内262戸のタバコ農家のうち実に149戸が応じたというニュースが流れた。栽培面積では547ha中253haで4割を超える。タバコ栽培は、全量をJT(かつての専売公社)が買い上げる農家にとって手堅く安定した仕事だ。それが廃作を希望する理由はただ一つ。需要が減ったことでタバコ栽培が先のない仕事になったということだ。政治の思惑はどうあれ、日々稼いで生計を立てねばならない農家はタバコ栽培に見切りをつけだしている。