数年後には、地図やガイドブックではなく、スマートフォン(スマホ)やタブレット端末を持って、まち歩きを楽しむ人が圧倒的に増えよう。スマホで表示する地図と、GPSや位置情報タグを組み合わせれば、その地点に着いた時にだけ必要な情報が簡単に得られるようになるからだ。情報を配る側も、こうしたサービスに対応していく。

 私が理事を務める墨田区観光協会では、2012年の東京スカイツリー開業を前に、スマホがまち歩き観光にどこまで使えるのかを確かめる実験を続けている。アキバテクノクラブの「東京まち歩き研究会」にも積極参加して、スマホ活用を模索する大学教授、旅行代理店、アプリ開発者などの提案を、できる限り墨田区で実現させるのが私のミッションだ。既にどんなことが実現され、また計画中なのかをご紹介しよう。

1.豆富小僧スマホスタンプラリー

 墨田区をロケ地にしたアニメ映画「豆富小僧」と共同で、スマホを使った七福神のスタンプラリーを行った。神社でスマホのボタンを押せば、スタンプを入手できる。墨田区は七福神巡り発祥の地。新たにゲームやアニメのファンが、下町を歩くきっかけにしたい。北斎、鬼平、力士、本所七不思議などのテーマでも応用できそうだ。

2.まち歩きナビとプログラム連動

 「すみだ・ストリート・ジャズ・フェスティバル」では、スマホアプリを活用して演奏会場とプログラムのナビゲーションを行った。ネット上の地図を見れば、「今どこで、どんなグループが演奏しているか」「その会場では、どんなグループがこれから演奏するのか」が一目で分かるようにした。そしてGPSと地図がそこへ導いてくれるのだ。

3.ガイド本も電子書籍に

 江戸の昔から東京スカイツリーまで、墨田区の歴史をまとめたのが、「すみだ街歩きガイド」。当初、ガイド本として作った書籍が人気となり、一般販売した。さらには、電子書籍化し、まち歩きのお供となる。

4.ソーシャルメディアつぶやき歩き

 まち歩きイベントがあるたびに、皆がTwitter、mixi、Facebookなどで写真付きの投稿をしてくれる。また、観光協会やイベントの公式アカウントにも、情報を返してくださる人がいる。これからは、観光協会のホームページより、ソーシャルメディアのクチコミの広がりこそが重要になるのだ

5.全国路地サミットでも実験

 10月に墨田区で行われる「全国路地サミット」では、路地裏の町工場ツアーでスマホが活躍する。迷路のような路地裏をGPSで案内するだけではない。工場を見学できない場合も、その前に立てば、工場や職人の仕事が分かる動画が再生されるようにするのだ。

6.昔の写真を拡張現実で再生

 わが観光協会では、昔の街の風景写真を集めている。残念ながら、墨田区は関東大震災と空襲で二度焼け野原になったため、歴史的建造物が少ない。そこで、今の風景にスマホをかざすと、昔の写真や浮世絵が画面に映し出されるような拡張現実(AR)を構想中。年代別に遡れば、タイムスリップ気分を味わえる。

7.古地図とGPSで歴史まち歩き

 スマホ上で古地図と現代のデータを重ね合わせ、GPSでまち歩きナビをする構想もある。私のような鬼平ファンなら、今の地図にはない小説ゆかりの旧地名や、登場人物の住まいやお店の跡地を巡って、特別な小旅行を楽しみたい。本所七不思議に登場する津軽藩の屋敷が、すみだ北斎美術館に変わるといった新旧交代も面白い。

8.スマホアプリを墨田で応援計画

 これからは、スマホアプリに命運を懸ける企業やベンチャーも増えよう。そんな志の高い企業と、墨田区観光協会は一緒に実験を進めたい。予算は限られるが、観光資源とコンテンツは山ほどある。毎週のようにイベントやまち歩きツアーも開催されている。墨田で共同実験をしながら質を高めて、全国展開の足掛かりにしてほしい。