最近では、テレビのワイドショーでもスマートフォンの話題が取り上げられるほど、広く話題のキーワードになったようです。ただ、テレビなどでコメンテーターなどが「これでパソコンはいらないですね」といった発言を聞くに、筆者は少し違和感を感じます。なぜなら、そこでは、単にスマートフォンでWebページを開くデモが行われた程度にすぎず、それがパソコンの話に結び付くのがヘンな感じだったのです。

 しかし、良く考えてみると、多くの人にとって、パソコンとは「インターネット」のための道具だったのです。

 1990年代始め、世界中でインターネットの商用化が始まると、誰でもISPと契約してインターネットにアクセスできるようになりました。また、最初からインターネットアクセスが可能なWindows 95の登場により、インターネットはより簡単にアクセスできるようになり、さまざまなサービスが登場します。

 パソコン自体は、すでに企業での利用が行われており、個人でも利用者はいましたが、パソコンを広く普及させたのは、インターネットでした。

 パソコンの世帯普及率や、世帯内でのインターネット利用について、政府の統計などからグラフを作ってみました。パソコンの世帯普及率については、内閣府の「消費動向調査」が1987年から調査しており、世帯内でのインターネット利用については総務省の「通信利用動向調査」が1996年から調査しています。これを合わせてグラフにしてみたのが下の図です。これを見ると、インターネットの普及とパソコンの普及が同期しており、1996年からインターネット利用者が増えるに従って、パソコンが家庭に普及していきます。

パソコンの世帯普及率とインターネットの世帯利用率。1996年頃からインターネットの利用率が高まるとパソコンの普及率も同じように伸び、2003年頃にインターネット利用率の伸びが小さくなると、パソコンの普及率もこれに連動するように伸びが小さくなった
パソコンの世帯普及率とインターネットの世帯利用率。1996年頃からインターネットの利用率が高まるとパソコンの普及率も同じように伸び、2003年頃にインターネット利用率の伸びが小さくなると、パソコンの普及率もこれに連動するように伸びが小さくなった
[画像のクリックで拡大表示]

 この1990年代中頃から、パソコンユーザーの動向が変わり始めました。パソコン(あるいはOS)そのものに大きな興味を持つユーザーが減っていったのです。Windows 95は、深夜0時に販売を行い、多くのユーザーが並んだことがニュースにもなりましたが、ある意味、このときがWindowsそのものに興味を持つパソコンユーザーの比率が最も高かった時期でした。実際、このWindows 95の深夜販売をピークに、その後、深夜販売は除々に下火になっていきます。また、中古パソコン市場が立ち上がり始めたのもこの時期でした。つまり、そのころから多くの人は、パソコンやOSに興味があったからパソコンを使っていたというわけではなく、インターネットを利用したいがためにパソコンを利用していたのです。その利用範囲は「Webとメール」という使い方だったのです。これに対して、従来からのプログラミングやグラフィックスなどといった「何かを作る」目的のユーザーの比率は、相対的に少なくなっていきます。

 では、なぜ、みんなパソコンでインターネットにアクセスしたのでしょうか? これは、この当時、インターネット自体が商業化直後で、さまざまなサービスが黎明期にあり、さまざまな技術が使われたため、パソコンのようにあとから機能を拡張していけるものだけが残ったのです。なぜなら、世界中の大多数が使うWindowsやLinuxなどのオープンソース系のシステムであれば、Web用に新しい技術が採用されても対応が可能ですが、一企業が作り上げたシステムが新技術のためのプラグインや新機能を組み込んだWebブラウザーを自力で開発することは不可能であり、インターネットの変化についていけなかったからです。実際、ワープロにWebブラウザーを組み込んだ製品やインターネットアプライアンスと呼ばれる専用機、インターネットテレビといったものが登場しましたが、どれもすぐに廃れてしまいました。

 1990年代から2000年代の中ばぐらいまでは、パソコンがインターネットアクセスには必要であり、それ以外の機器でのインターネットアクセスは、制限されたものでした。携帯電話も、iモードのようなインターネットを模したシステムからフルブラウザーという方向はありましたが、パソコンのWebブラウザーと対等というわけにはいかなかったのです。