7月24日、ついにアナログ放送が終了した。総務省の地デジコールセンターには24日の1日だけで12万4000件の相談が集まったというが、これはその程度で済んだということだろう。

 前回の「アナログ放送終了から古い体制のきしむ音がする」では、多くの反響をいただいた。その中には、「そんなに簡単にいくものか、やはり地上デジタル放送は必要なのだ」という意見もあった。今回はそんな意見に対して答えていくことにする。

本質的困難と対処可能な技術的課題を区別する

 技術的に一番多かった質問は、「衛星放送は雨に弱い。雨が降ったらそれだけで電波が乱れたり受信不可能になる。そんな脆弱な放送システムに国の情報伝達の基幹であるテレビ放送が依存してしまっていいのか」というものだ。

 雨が降ると衛星放送の電波が乱れるのは事実である。電波が雨粒で散乱されて弱くなるのだ。これを降雨減衰という。確かに台風の時など、テレビ放送が受信できなくなったら大変不便だ。

 これに対する答えは「高精細テレビ放送(HDTV)が周波数の高い電波を必要とするのは物理学に基づく必然だが、降雨減衰は対処可能な技術的課題だ」というものである。

 まず、前回のおさらいだ。高精細なテレビ放送は情報量が多くなる。一定時間に送信できる情報量を大きくするためには周波数の高い電波を使う必要がある。このことは情報理論で数学的に示される事実であって、どうすることもできない。情報圧縮という技術を使えば人間にとってきれいに見える画像のままで情報量を減らすことができるが、それにも限界がある。

 一方、降雨によって受信状態が悪化する原因は、受信機に届く電波が雨に乱されて弱くなることだ。こちらには、技術的解決策が存在する。

 「HDTVの送信には高い周波数が必要」ということには基本的に解決策はない。地上デジタル放送のように無理にUHF帯に押し込めば、画質は劣化し、チャンネル数も少なくなる。一方、降雨減衰は、いかようにも解決可能なのだ。