筆者が学校で著作権教育を始めたのは、もう10年以上前のことだ。ただし当初の授業は、今考えると恥ずかしい。「著作権が保護されるのは著作者の死後何年か」「引用の条件を知ろう」などと、まるで著作権法の条文を覚えるような授業だったからだ。小学生に、である。そこで少しずつ内容をブラッシュアップして、著作者の気持ちを考えさせるような授業に変えていった。

 4年前に管理職に就いてからは直接教壇には立っていないが、その後も講師として著作権の研究授業を参観したり、著作権情報センター(CRIC)の「著作権教育実践事例募集」の審査を行ったりして、著作権教育には携わってきた。この10年の著作権教育の進歩は目覚ましく、最近の実践事例は素晴らしいものへ進化している。

必要から生まれた著作権に

 すぐれた実践事例の多くは、次のような流れで学習が進む。

 (1)子供たちが何かを制作する活動が組まれている。
 (2)活動の中に、著作権処理の必要性を感じさせる仕掛けがある。
 (3)実際に子供たちが著作権者に許諾を得る活動を行う。もしくは、制作したものを公表する。

 つまり、取って付けた著作権ではなく、子供たちにとって必要から生まれる著作権なのである。小学校では、著作者の死後何十年で著作権が切れるかといった知識は重要ではないのだ。

 著作権教育は確実に進んでいる。しかし、それはごく一部の教師によるものであり、多くの学校ではまだまだ十分には実施されていない。その理由は、教師が著作権教育のイメージをつかんでいないことに尽きる。教科書や指導書がないので、どうやって授業をすればよいのか分からない。自分が受けてきていない授業だから分からない。指導に使える教材があるのか分からない。そもそも必要なことなのか分からない。分からないこと尽くしなのだ。

 本来は、今頃そんなことを言ってはいられない。情報モラル指導が盛り込まれた新しい学習指導要領が、小学校では2011年度から完全実施されているからだ。中学校は2012年度から完全実施される。著作権については道徳の時間で扱う内容として、学習指導要領の解説に次のように記述されている。「道徳の内容との関連を考えるならば、例えば、ネット上の書き込みのすれ違いなど他者への思いやりや礼儀の問題及び友人関係の問題、情報を生かすときの法やきまりの遵守に伴う問題など、多岐にわたっている」──このうち著作権教育に当たるのが「情報を生かすときの法やきまりの遵守」という部分だ。