私が借りているいくつかの仮想サーバーのうちの一つを提供している事業者のサーバーが5月8日の深夜に接続できなくなりました。これまでにも数カ月に1度、数時間にわたる障害があったのですが、今回はこの原稿を執筆時点でも復旧の見込みは立っていません。

 そもそもクラウドの仮想サーバーサービスは、特に中小企業にとっては冗長構成の確保やハードウエアの導入コスト、データセンターや回線のコストを抑えながらも信頼性の高いサービスを利用できる、という画期的なサービスでした。

 また、大企業にとってはキャンペーンサイトなどに有効です。一時的に必要になるものの、専用のハードウエアを購入するコストを抑えられ、限られた期間だけレンタルしてサービスが終わればサイトをクローズすることも可能だからです。さらに、CPUやディスクドライブなどを極めて短時間で変更できるメリットもありました。

 そして多くの雑誌やメディアでクラウドにおける仮想サーバーの利用での成功事例の紹介や広告の展開が行われてきました。他社からの乗り換えキャンペーンも大々的に宣伝されていました。

 仮想サーバーの場合、業者やサービスによってはSLA(service level agreement)や損害賠償規定などがあります。ただし、そのほとんどが月額料金の一部や全額を請求しない、というもので、サーバー停止による営業機会損失や顧客への損害賠償を補填するようなものではありません。

 今回のケースでもクラウド事業者は、サービスが停止しているので別の仮想サーバーを無料で3カ月間借りられます、という代替案を顧客に提案しています。しかし、サーバーは止まったままですからデータは取り出せませんし、構築したシステムの設定データなども取り出すことができません。手元にバックアップがあっても、それを使って一から再構築しなければいけません。サーバーが停止している間は、障害通知すらも顧客企業の顧客には提示することができなかったのです。

 私もすぐに別の事業者の仮想サーバーを借りてサービスを再開しましたが、その費用は補償されません。

 まだ仮想サーバーは復旧していませんが、クラウド事業者はこのサービスを品質が確保できるまで再開しないことを顧客に案内しています。サーバーが復旧してもデータを取り出すのみで、サービスの再開は別途再構築したサーバーに移し変えなければなりません。そして、データは破損している可能性もある、とのことです。

 現時点では原因は明らかにされていませんが、ファイルシステムに障害が発生したことだけが説明に用いられています。一般的なサーバーの冗長構成であれば、1台のサーバーがハードウエア的に故障したとしても、もう1台で復旧することができます。私はこの仮想サーバーを借りる前にハードウエアの冗長構成について問い合わせました。その際には「ホットスタンバイで冗長構成を採っている」という回答を得ていました。つまり、サーバーが故障しても直ちにバックアップシステムが機能する、はずでした。

 つまり、ファイルシステムが故障してバックアップシステムも機能しないということは、仮想サーバーを保存しているディスクは冗長構成が採られていなかったのではないか、ということが考えられます。あるいは、ディスクへの書き込みを行う別のハードウエアの冗長構成が採られていなかった、なども考えられます。

 たまたまこの障害を起こした事業者は過去の障害情報をユーザーでなくても閲覧することができます。しかし多くの事業者ではユーザー契約をしないとその情報が見られない、という状況です。お試しなどで登録するか、有料会員契約しないと過去の障害事例が見れないというのは今後改善して頂きたいことです。また、過去といっても1カ月前の情報しか閲覧できない業者もあります。ユーザーはこうした情報も勘案して選択するはずですので、ぜひ情報を提供していたきたいと思います。今回の国産クラウドの大規模な障害は、今後の国産クラウドの品質評価、クラウド利用のシーンの再考、クラウド事業者選びの基準などにも大きな影響を与えると思われます。よりよい方向に進むことを期待しています。