色々と割り込みが入りつつ、この春から電子書籍について色々な考察をしてきた。今回は締めくくりとして、これから1年の間に電子書籍の世界がどうなっていくかを、独断と偏見を含めて考察してみよう。1年後にこの連載が続いているならば、そこで実際どうなったかを確かめ、自分の慧眼を誇るか、それとも暗愚さを悔いるか、どっちにせよ楽しもうという趣向だ。

その1:電子書籍は普及する

 「は?、今さら何を言っているのだ」と言われそうだが、今でも「そんなもの普及しないよ」と主張する人はいる。私の見るところ、そんな電子書籍否定論者は、「電子書籍の時代など来てほしくない」という願望と、「電子書籍は普及しない」という意見とをごっちゃにしていることが多い。

 私が、「電子書籍は普及する」と見る根拠は、1)音楽の世界では配信事業が一般化した、2)お手製電子書籍が電子書籍時代を導くで取り上げたように、自分で本をスキャンして電子化する人が少なからず出てきている――という2つの事実に基づく。10年前の電子書籍コンソーシアム実験を振り返るに書いた1999年の実験の時とは、状況が根本的に変化している。

 すでに音楽の世界ではネットを通じたデータ販売が一般化している。電子書籍も音楽のサウンドファイルも同じデジタルデータであり、シーズとニーズの両方が存在する以上、普及しないということは考えられない。

 ここでの普及とは、一時の実験的試みではなく、少なくとも10年単位でコンテンツが提供され続け、ある程度以上の規模になるということを意味する。

 では、どの程度普及するのか。誰もが電子書籍を読むようになるのか。それとも、そこそこの普及にとどまるのか、あるいは「好き者が先走って飛びつく珍品」になってしまうのか。

 この問題は、次の2から5の4つの問題を、どのようにクリアするかにかかっている。