最近話題になっているFD改ざん事件は、我々に「何を信じたらいいのか」という治安当局に対する信頼が根本から揺らぐ事件として記憶に残ることでしょう。

 日本は治安がいい国だと思っていたら、その治安を守るべき立場の検察官自身が証拠をねつ造たとして最高検察庁に証拠隠滅容疑で逮捕されたのですから、社会的な影響はかなり大きいものになるでしょう。

 ところで、この事件に対する当局の今後の再発防止策はまだ公表されていませんが、「二度とこのようなことが起こらないように周知徹底する」「関係者の厳重な処分」というようないわゆる「根性論」「形式論」に終わらないようにしてもらいたいものです。

 例えば殺人現場などの証拠としての「加害者の血の付いたシャツ」などであれば、ねつ造しようとしても、状況証拠や経過した日数などから不自然さ出てしまいそうです。また、手書きの書類にしても、インクや筆跡、その他から証拠のねつ造は困難だと思います。もしねつ造されたとしても、それを見破るための技術や証拠保管手順などは永年にわたり研究されてきています。

 ところが、日本ではデジタル犯罪は「犯人が自供」するケースが多いため、分析結果を基に法廷で争うというようなことが行われてこなかったのです。このため、デジタルならではの証拠物件の保管方法などの体制が、問題となった部署では、まだ整っていなかったのではないかと推測されます。

 今回のFD改ざんが今後起きないようにするには以下のような対策が必要になると思います。

  • 押収した証拠物件はハード的にコピーしオリジナルは厳重に保管
  • オリジナルを分析しないといけない場合(残留磁気の測定など)には、部署の異なる複数人の関係者の立会いの下、厳粛に行う
  • 捜査当局自身のパソコンやサーバーの操作ログの取得

 今回問題となったFDは、そもそも証拠として法廷で取り上げられなかったものですが、もしこれが大きな証拠となった場合には、FDにとどまらず周辺のサーバーや関係者のパソコンなども全て調査分析しなければならなかったでしょう。

 その際、デジタルデータについての信憑性を担保できる十分な技術者が確保できていない上に、司法関係者の中でこれらの技術に詳しい方が十分にそろっていないのではないでしょうか。殺人などでは専門の医学的な知識を持ったスタッフを検察・弁護側の双方が確保でき、鑑定結果にある程度の技術レベルが確立されています。しかし、デジタル犯罪では、まだそうした状況にないため、とても詳しい技術者が付いた側に有利になることも考えられます。

 デジタルデータは、周辺のサーバーやパソコン、ネットワーク機器など全てで、つじつまが合う状態で証拠をねつ造してしまえば、計画的に誰かをハメることが可能になってしまうのです。全てのつじつまを合わせるのはとても困難だという考え方もありますが、ある程度の条件を絞りこんであればつじつまを合わせることは可能です。もしこのような高度な犯罪が行われた場合には、それを覆すためのより高度な技術者を雇って解析して立証しないといけません。

 まだこのようなことは日本では起こっていませんが、これからはデジタル犯罪の増加に向けたさまざまな取り組みを行っていく必要があると考えられます。人材育成や必要な技術の普及と資格制度などは何年もかかる取り組みとなります。現在でも関係者の努力が行われていますが、十分に政府として認識されているとはいえないでしょう。

 これは企業内でも対策を行っておく必要があるということにもつながります。犯罪に巻き込まれないためにも、また、犯罪を抑止する意味でも操作ログはとても重要な意味を持ちます。時刻認証やその操作ログの真正性も含めて保管するようなニーズも出始めていますから、今後の普及が待たれます。

■変更履歴
公開当初、捜査当局全般において証拠品の取り扱い体制ができていないと誤解されかねない表現があったため修正しました。本文は修正済みです。 [2010/9/28 21:30]