日本語入力システムとして古くから多くのユーザーに親しまれてきているATOKがiPhoneで使えるようになった。やった!! これでメールや会議録メモなどがバシバシ書けるようになる、と大喜びする人も多そうだが、今回はそこんところがちょっとイタイ。iPhone用ATOK「ATOK Pad for iPhone」は、アップルのアプリケーション開発ガイドラインに阻まれ、iOSの「根元部分」に組み込むことができなかった。その結果、現在のiPhone組み込みの日本語システムの代替としては機能せず、各種アプリケーション上で共通して使える形にならなかったのだ。

アップルのガードは堅かった

 ATOKを開発するジャストシステムは当然、iOSに標準装備されている日本語入力システムと「取り換え可能な」形で商品企画を検討するも、アップルの堅いガードに阻まれてしまった。システムの根幹部分はサードパーティに公開しない、との方針がここでも貫かれた。

 アップルの主張はもちろんよく分かる。数億人が使う携帯電話のようなセキュリティ堅固であるべき機器のコア部分にサードパーティのソフトモジュールが入ってくるようになれば、アップルがコントロールできないセキュリティホールが生れるかも知れない。また、ソフトモジュールがシステムの深い部分に組み込まれている場合、iOSが少しアップデートされるたびにサードパーティ製のそのモジュールが動作しなくなる可能性も大きい。逆に、サードパーティモジュールがiOSに影響を及ぼし、動作不安定を引き起こす要因となるかも知れない。

 日本語入力システムがOSの奥深くに組み込まれることと、別アプリの中に組み込まれることの違いをもう少し詳しく見てみよう。

 図1はiOSの日本語入力システム(インプットメソッド)を補完する位置にATOKが存在し、iOSの機能を拡張する形となっている様子を示している。この形式になっていれば、ユーザーは標準の日本語入力システムと切り替えて、さまざまなアプリでATOKが使える。「メール」にも「メモ」にも、サードパーティのアプリにもATOKを使って日本語入力ができるというわけだ。

図1 iOSに含まれる日本語入力システム(インプットメソッド=IM)と切り替え可能な位置にATOKが存在した場合には、入力システムを切り替えるとすべてのアプリで、選択した入力システムが使える。ジャストシステムは当然この方法を模索したが、iOSの奥深くにフックされるような仕組みにすることは、かなわなかった。
図1 iOSに含まれる日本語入力システム(インプットメソッド=IM)と切り替え可能な位置にATOKが存在した場合には、入力システムを切り替えるとすべてのアプリで、選択した入力システムが使える。ジャストシステムは当然この方法を模索したが、iOSの奥深くにフックされるような仕組みにすることは、かなわなかった。
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 一方、図2は今回のリリースで採用された方法だ。ATOKはこのために作られたメモアプリ「ATOK Pad」内に位置し、このアプリ内でしかATOKのかな漢字変換エンジンは機能しない。

図2 今回の製品「ATOK Pad for iPhone」はカナ漢字変換エンジンをアプリケーションの中に持つ。当然、日本語変換機能は他のアプリでは使えない。
図2 今回の製品「ATOK Pad for iPhone」はカナ漢字変換エンジンをアプリケーションの中に持つ。当然、日本語変換機能は他のアプリでは使えない。
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