遅ればせながらEvernoteを使ってみました。これまでパソコンやiPad、iPhoneのデータ連携はメールで送信するなどの「古典的な」方法で行っていました。知人に「Evernoteは便利だよー」と聞き、試しに使ってみました。

 パソコンだけでもそれなりにメリットはありそうですが、私が一番驚いたのは、OCR機能です。iPhoneでカメラ撮影した日本語の書類をEvernoteで取り込むと、日本語で検索できるのです。これはEvernoteにOCR機能があるからなのですが、これを使えば相当便利になることは間違いありません。

 一方で、情報セキュリティからするとかなりの脅威でしょう。これだけの高機能をもったソフトが無料で手に入るわけです。ユーザー数もどんどん増えていると聞きますから、悪意はなくとも携帯で書類を写真撮影して取り込んでOCRでテキストに変換するということがごく当たり前になる「直前」ではないかと感じました。

 なぜ直前かというと、まだ日本語のOCR機能の精度が十分ではないことと、カメラで撮影して取り込むような使い方が一部のファンにとどまっているからです。でも、最近よく目にする光景で、ホワイトボードを使った打ち合わせの後、携帯でカメラで撮影する方が多くなりました。

 これも情報セキュリティからすると相当まずい状況です。撮影している携帯はほとんどが個人の携帯です。その会社のセキュリティポリシーはというと、そのようなことが想定されていないことが多く、記述がない、つまり「ポリシー上問題ない」ということになってしまっているのです。

 さらにややこしいのが、他社の方と相手先の会社で打ち合わせをしている場合に、その相手先がポリシー上問題なければ、ホワイトボードの撮影が問題ない、ということになってしまう可能性が高いのです。

 先に挙げたEvernoteはWebページやテキストメモだけでなくあらゆるものを取り込んでいきます。そしてそれらを一括管理することができ、しかも、基本的な使い方なら無料なのです。こうしたガジェットを使いこなすヒトからすれば、新しい技術について来られないセキュリティポリシーに問題があって、そこに書いてないならいいだろう、と考えるかもしれません。

 「ホワイトボードの撮影禁止」「書類の撮影禁止」「場所を問わず当社に関係する情報すべてに適用」などとセキュリティポリシーを慌てて修正する会社も多くなることでしょう。一方でこんなに便利であるならば、むしろ知的財産の有効活用という観点から、情報セキュリティを確保しながらもこれらの便利なツールを使いこなしていこう、という考え方をした方が会社の競争力は高まるでしょう。

 そのためにはこれまで形だけ行ってきた教科書通りのリスク分析ではなく、リスクの把握と許容を高い次元で行う必要があるのです。「何でも禁止」にしたがる会社はこうしたところで知的競争力を失っていくのです。

 クラウドにせよスマートフォンにせよ使いこなせば知的生産性は飛躍的に向上する可能性を持っています。これらの活用はこれまでのノートPCの延長で考えてはいけません。ノートPCは「どの会社も」持ち出し禁止にすればよかったかもしれませんが、これからは新しい技術を使いこなせるかどうかが企業の競争力に少なからず影響を及ぼすようになるでしょう。

 ホワイトボードの撮影と同様に目にすることが多くなったのが、録音です。これまでは編集者の方などのプロが使う録音機器ですが、今ではiPhoneやiPadなどのスマートフォンでも簡単に録音ができるので、重要な会議ほどさりげなく卓上で録音している方がいます。これも従来のセキュリティポリシーから抜け落ちているものの一つでしょう。

 録音、録画禁止!! というポスターがそのうち会議室で当たり前になるかもしれませんが、せっかくの利便性を生かす工夫をする会社が増えてほしいものです。