若年層のセキュリティ意識の向上と優秀なセキュリティ人材の早期発掘と育成を目的にした「セキュリティ&プログラミングキャンプ」が千葉市で今年も行われました。2004年から今年で正式には7回。2003年には「ハッカー甲子園」と報道されて話題となった“幻の第ゼロ回”を入れると合計8回になります。まだまだ広く知られているイベントであるとは言えませんが、今年も多くのレベルの高い少年少女が全国から集まりました。今年は史上最年少となる13歳の少年がいたほか、年々レベルは上がっているなかで天才級と呼べる少年少女が何人もいました。

 厳しい書類選考を経た少年少女に幕張の研修センターで4泊5日の豪華な講師陣によるセッションが行われました。内容としてはセキュリティとプログラミングにコースが分かれていて、さらにその中で詳細コースが用意されています。

 そして今年はコンピュータに関する知識を競う「CTF」(Capture The Flag)が行われました。講師たちが考えた問題を解いて、問題ごとの得点を稼いでいくゲーム感覚のものなのですが、バイナリーファイルをダンプして、その中から答えを探すものもあり、とても高度な内容でした。これはもはや「ハッカー甲子園」と呼んでもいいと思います。

 なぜわざわざ交通費や宿泊費まで提供して1つの場所に集めるのかというと、講習内容の価値は当然ながら、1つの場所で寝泊りして初めて会うヒトの中で刺激的な時間を共有して欲しいからです。その中でコミュニティが発生して、キャンプが終わっても同期の友だちだけでなく講師陣、手伝いにきている卒業生、実行委員、事務局などの大きなコミュニティを手に入れることになるのです。

 そのコミュニティは就職しても、技術的なことにとどまらず相談できるのです。今はネットで関係を持ち続けることが容易になりましたが、やはりオフラインで知り合うことが一番のきっかけになります。

 キャンプに来る子供たちは技術的に優れているがゆえに、学校の友達と同じ話題で語り合う機会がほとんどないのです。そのような子たちばかりがオフラインで寝食を共にすることは、日本のITの将来を担うかもしれない能力を持った子供たちに大きなチャンスを与えることになると考えています。

 しかし私が気がかりなのは、優れた能力を持つ彼らが進む道です。日本では優れた能力よりも周りと溶け込むドングリ型が歓迎される傾向にあります。特に大企業ではいわゆる優等生が面接で合格する率が高いのです。

 天才級を雇用しても使いこなせないこともあるでしょう。理解ある上司に出会えればいいですが、失敗しないことを評価対象にしているような会社では力もモチベーションもそがれてしまうことでしょう。

 しかし、これからはドングリ社員ではグローバル社会で戦えません。これからの日本の主戦場は間違いなくグローバル社会です。そこで戦うには個性ある社員をのびのびと働かせられる企業文化や職場環境が必要になってきますし、そのような会社が生き残って行くのだと思います。

 年功序列は崩れつつありますが、それは、単に高齢になった社員のリストラのためでしかありません。それよりも若い人材を評価して能力を引き出すような評価制度やスキルアッププログラム、そして職場環境が求められます。

 「将来の日本を支えるとんがった人材求む」というオトナ自身が、実は充分に去勢されていて、そのような人材の扱い方を知らないかもしれません。企業文化を変えることは、思いつきや言葉だけではなし得ません。特別に抜きん出た能力を持つ彼らを受け入れられる態勢は経営判断としての企業文化の変革を伴います。小手先の就業規則の変更だけでなく、管理者教育も含めて根本的な見直しが必要な大企業が多いのではと危惧しています。

 生き生きとした目を持つ彼らを暖かく迎え、でも厳しくオトナの社会を教えながら育てられる企業が増えてくれることを願っています。