前回のコラム掲載から2週間の間に、電子ブックの世界ではいくつか大きな変化があった。まず、前回取り上げたボイジャーが、米非営利団体Internet Archiveの進めるBookServer構想に参加したInternet Archiveは人類が生み出した文章、音声、画像、動画像などすべての情報をデジタル化して誰でも利用できるようにしようという非営利の巨大プロジェクトだ。最初は、日々生成消滅するネットの情報をアーカイブして、「特定の年月日のインターネット」を再現可能にしようというものだったが、今や人類の知をすべて集めた巨大なデジタル図書館を作るという構想にまで広がっている。

 BookServerは、電子ブックを有償でも無償でも、販売でも貸し出しでもダウンロードでも、――考え得るすべての配布形態を、すべての人に提供しようというプロジェクトだ。

 これは非常に大切なことだ。電子ブックの流通経路が、アップル、アマゾン、グーグルといった大企業に握られてしまうと、それぞれの企業の思惑で特定の電子ブックデータの流通ができなくなる可能性がある。オープンかつ非営利の流通ルートを確保することは、インターネットにおける情報流通の自由を守ために必須の命題と言ってもいい。

 現状のBookServerは、まだ始まったばかりだ。世界中の言語が流通する巨大流通システムに育つかどうか、要注目だろう。

 もう一つは、総務省と文部科学省、経済産業省が共同で「電子書籍ビジネス環境整備研究会(仮称)」という研究会を立ち上げるというものだ。かなり民主党政権の意向が入った研究会のようで、「書籍のデジタル化の制度設計などを政治主導で推し進めたい」と報道されている。電子ブックは、業界という枠を超えて政治の問題にもなりつつある。