書籍とは何か。物体として見るならば定型の紙を束としてまとめたものであり、表面には文章が印刷してあるものだ。では電子書籍とは何か――それは文章、すなわち電子的な表現形態はテキストでありテキストファイルである。この考え方に立って、1990年代前半から、一貫して電子環境においてテキストをどのようにして扱うかという問題意識で活動してきたのがボイジャーだ。もともとは「パソコン画面でテキストを読む」という考え方に基づき、米国でパソコンで読む本「Expanded Book」というソフトウエアを販売していたロバート・スタイン氏のVoyger Inc.に、萩野正昭氏ら創業メンバーが共感して立ち上げた会社である。

 この経緯から分かるように、ボイジャーは徹頭徹尾、テキストにこだわって事業を展開していくことになる。なにしろ本家Voyagerのスローガンは「Text: the next frontier(テキスト、それは次なるフロンティア)」というものだった。おそらくこれは、米国のSFテレビドラマ「Star Trek(邦題:宇宙大作戦)」のナレーション「Space, the final frontier(宇宙、それは最後のフロンティア)」にちなんなものなのだろう。

 ボイジャー最初の大きな仕事は、Expanded Bookの日本語ローカライズ版の「エキスパンド・ブック」(1993年7月発売)というソフトだった。「拡張された本」という名前通り、Expanded Bookは紙の本をそのままパソコンのディスプレイ上に再現し、なおかつ検索や動画像とのリンクといった紙の本では実現し得ない機能を付加したものだった。アップルコンピュータ(当時)のMacintoshに無料で添付されていたハイパーテキストソフト「HyperCard」の上で動作するソフトで、HyperCardなしの環境でも閲覧可能なアプリケーション版のブックを出力する機能も備えていた。当然ながらMac版だけで、Windows版は存在しない。日本語化に当たっては、日本語特有の字詰め規則を取り込むのに大変苦労したと聞いている。それはローカライズと言っても、ほとんど一から別のソフトを組むような作業だった。