新型インフルエンザに対抗するには、社会全体で正しい対策を実施することが必要になる。しかし、ここに来て、主に欧州において行われてきた、“おまじない”的療法が、「新型インフルエンザにも効く」というふれこみで、日本に入り込みつつある。

 それは、かつて真面目な医学療法として提案されたが、現代科学の観点からすると、かなり怪しい理論的背景を持つ。医学療法として意味なしとする調査研究も数多い。にもかかわらず欧州において、かなりの拡がりをもって定着している。

 その名をホメオパシーという。

 ホメオパシーは、同種療法、あるいは同毒療法などと訳される。19世紀の初めに、ドイツのサミュエル・ハーネマンという医師が提唱した治療法だ。

 人体に害のある物質を投与することで逆に治療を進めるという発想なのだが、ホメオパシーの場合、「徹底した希釈」という特徴を持つ。例えば、有毒の化合物を水に溶かし、それをどんどん薄めていく。2倍や3倍ではなく、希釈に希釈を繰り返し、ついには元の化合物の分子が一つも含まれていないところまで希釈する。得られた希釈液を服用すると、元の化合物が原因で起きた症状を改善するというものである。

 現在のホメオパシーは、ハーネマンの提唱したものからさらに変化しており、徹底して希釈した水を糖の塊にしみこませ、錠剤化している。錠剤はレメディと呼ばれる。さまざまな症状別に多種多様なレメディが用意され、患者の症状に合わせて処方されるわけだ。

 ホメオパシーは発祥地である欧州を中心に、民間療法として広く普及している。

 試しに「ホメオパシー」と検索してみてもらいたい。ホメオパシーによる治療を薦めるページ、普及促進をうたう団体、通信販売、通信教育、「ホメオパシーで○○が直る」と効能を謳うページなどなど、ホメオパシーの効能を語る多種多様な情報が見つかる。

 しかし、現在の科学の知見からすると、ホメオパシーの概念は、疑問だらけだ。