新型インフルエンザが徐々に拡がりつつある。季節性のインフルエンザがいつもならばなりを潜める8月だというのに、インフルエンザ患者は減らず、かえって増えている。世界全体での死者数は3000人を超え、日本でも9月13日現在、死者数は12人となっている。
 私は今回の新型インフルエンザを、過剰に恐れることはないと見ている。ただし十分な注意と感染拡大を防ぐ努力は必須であり、そのためには確率・統計というものを十分に理解する必要があるだろう。以下、そう考える理由をまとめていこう。

 今回の新型インフルエンザは豚由来のH1N1型であり、ここ数年恐れられている致死性が非常に高い鳥由来のH5N1型ではない。鳥のインフルエンザであるH5N1型は、めったに人には感染しないが、感染した場合は非常に高い致死率(罹った人に対する死亡した人の割合)を示す。世界保険機構はここ何年も、H5N1型が人に感染する能力を獲得したら大変なことだと、警戒網を強化していたが、実際には豚由来のH1N1型が人への感染能力を獲得して今回の流行となった。
 H5N1型が人に感染する能力を獲得した場合、致死率は数%から数十%にも及ぶことになると危惧されている。一方、今回の新型インフルエンザの致死率は低い。これまでに日本では15万人が感染したと推定されているが、死者は12人。単純計算だがこれまでの致死率は、12/15万で、10万人に対して8人、すなわち0.008%だ。
 ただしこれは患者数が比較的少なく、十分な医療行為が行き届いた現状での数字である。大規模な感染拡大が起きて、医療が間に合わなくなると致死率は上昇するだろう。さらにはインフルエンザウイルスは大変に突然変異を起こしやすい。大規模な感染拡大が起きるということは、突然変異の確率が上がることを意味する。もしも、毒性が強まる方向に突然変異が起きれば、当然、致死率は上昇する。

 一部の研究者は、今回の新型インフルエンザの致死率を1957年に大流行した「アジア風邪(アジア・インフルエンザ)」並みの0.5%となると推定している。ちなみにアジア風邪では、世界人口が27億人の時代に、全世界で200万人の死者が出た。