ん。君、だれ?またウチのユーザーさん、何か買ったのか。
「ボクデースカ。ボクーハ、アメーリカカラヤッテキタ、オチャメナキーボードデース」
カタカナは英語じゃないからさ、普通に話そうよ。
「ワカリマーシタ。あ、どうしてもアメリカなまりが出てしまう」
オレはRealforce。よろしくな。
「オー、あなたもアメリカからデスカ」
東プレのキーボードだよ。名前はアルファベットだけど、日本製。ところで、君、どこがお茶目なの。
「遊びココロいっぱいのブラックですね。いわゆるひとつの黒ですか」
ただケースの色に合わせただけなんじゃないの。
「ボクをPS/2ポートにつなぐ、キーボードのあちこちにあるLEDがピカピカ光る。黒だととてもウツクシーイ」
え、今どきPS/2なの。
「ご主人、『やっぱりPS/2じゃないと安心できないよな、取りこぼしあるし』って言ってたネ」
うーん。うちのユーザーさん、時々わけの分かんないこと言うからな。オレを買うときも、『銀行とかでも採用してるし』って言ってたし。
「銀行!アナタ、そんなお堅いヒトなんデスカ」
お堅いとかじゃなくてさ、オレのスイッチは静電容量無接点方式だから、耐久性が高いの。銀行とかの業務だと、毎日バシバシキーを叩くでしょ。ちなみにうちのご主人の入力はヘロヘロって感じなんだけどね。ところで、君はどんなスイッチを使ってるの?
「ボク、スイッチボードじゃないね、キーボード」
分かってるよ。だから、そのキーの接触方式のことを聞いてるの。メンブレンとかメカニカルとかパンタグラフとか、いろいろあるじゃん。
「んー、キー入力、ちょとニガテ。真上から慎重に押さないと入力できなかったりするね。斜め押し、ダメ」
どんなキーボードだよ。
「いいのいいの。ゲーム仕様だから」
えっ、そうなの? ゲーム仕様ってすげえ世界だなあ。
「そうなのそうなの」
オレ、ゲームと関係ないもんなー。どんな配列なのか、ちょっと見せてよ。
「ホットキーを装備しているから、キー、たくさんあるね。ぜいたくでピカピカね。音量調節もバッチリ」
ほんとだ。えーと、えーと、「WWW」って何?
「キー一発で、WWWと入力できるね。すごい省略でしょ」
そんな省略いるのかなあ。ま、オンラインゲームなんてのもあるしな。ゲームの世界はオレら銀行向けにはよく分かんねえな。……あれ。
「何ですか?」
「全員に返信」「Program Filesを開く」って、おまえ、いくら何でもこれは無駄なホットキーだろ。
「オマケオマケ。普通のキーばっかり使ってると印字がハゲるね」
オレのキートップの刻印は昇華印刷だからハゲないんだ。
「ボクの刻印もあまり押されないからハゲないね」
結果は同じでも意味が全然違うって!
それに、君、ゲーム用って言ってたよな。ゲーム用らしいホットキー、ないじゃん。
「フフフ。これだからシロウトは」
日本じゃ、Realforceを素人扱いするやつはいないぞ。
「アノネー、ゲームで大事なのは、マクロ機能なの。ボクはユーティリティー付きだからネ」
あ、そうか。ゲーマーはキーを同時に押したり、連続押しを使いまくるもんなー。でも、その程度のことはオレもできるぞ。Nキーロールオーバーに対応してるからな。
「ツーン」
おい、どうしたんだよ。
「そんなゲーマー、嫌い」
えーっ、Nキー対応してないの? それまずくない? あとWindowsキー。でかすぎないか。ゲームの最中に押しちゃったらどうすんの?スタートメニューがびろーんて立ち上がるぜ。
「うっ。そこはゲーマーのミナサンに気をつけてもらう地雷地帯ネ」
何で地雷地帯なんかあるんだよ! 君、ほんとにゲーム用なのか?
「……ま、雰囲気だけは」