マイケル・ポラニーが生み出した「暗黙知」というコンセプトは、実はライフハックとも非常に相性がいいものです。「言葉にできないけど、分かっている/習得している」ということですが、ビジネスの現場でもあると思います。例えば、お客さんとのコミュニケーションを通じて「この人はこの商品を買うだろうな」といったようなことがなんとなく分かる。こういった営業マンの経験・知識も暗黙知の一つでしょう。

 この暗黙知を習得するには、現場に立ち会って、暗黙知がどのように働いているのか想像することが必要だとポラニーは言います。先の営業の暗黙知の例で言えば、優秀な先輩のかばん持ちとして営業の現場に同行することが、もっとも効果的な習得方法です。

 コミュニケーション以外にも、暗黙知は活躍します。その代表的なもう一つの例が、ものを作り出す瞬間です。

 新しい企画を考えたり、ヒット商品を生み出したり、流行のファッションを作り出したりといったクリエイティビティが発揮される場面というのは、言葉では表現できない「暗黙のうちに(売れる企画が)分かる」という暗黙知が発揮される瞬間にあふれています。

 ところが、こうした何かを作り出す瞬間というのは、営業のように同行して同じ場面を共有することが難しい場合も多い。クリエーターはたいてい1人で考えるし、その思考のプロセスはコミュニケーションと違って他の人から見えないところで行われるためです。

 そうした暗黙のうちに行われるクリエイティブな思考のプロセスを顕在化させる方法が、ブレーンストーミング(ブレスト)です。

 ブレストでは、アイデアを生み出すためのプロセスをメンバー全員で共有するため、参加者が自然とアイデアを作り出すための暗黙知を獲得していくことになります。前回ご紹介した面白法人カヤックが大切にしている方法です。

 もう一つ方法として、ワークショップ(体験型講座)があります。

 先日、那須アートビオトロープで行われた、陶芸のワークショップに参加してきました。教えてくださったのは世界的に活躍する陶芸家、小池頌子(しょうこ)さん。小池さんの指導の下、陶芸の素人でも作ることのできるような段取りで一人一人が作品を完成させました。同じ指導の中ですが、一人一人異なるさまざまな作品ができ上がっていきました。

 ワークショップの合間には小池さんの実演も行われ、その技術と感性が発露する瞬間に立ち会うことができました。40年の試行錯誤を、実際に再現しながらの解説は、クリエーターの思考プロセスを間近に感じられる貴重な機会でした。

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 ここには2つの学びの機会があります。ひとつは、一人一人が異なる作品を仕上げることによる「気付き」です。「こんな方法もあるのか」「こんな作品もありうるのか」という発見が、学びにつながります。もうひとつは、作家自身の制作プロセスを間近に見ることによる学びです。どういうことを考えて作っているのか言葉にしながら作成していくので、暗黙知がいわば形式知へと変換されながら伝わってきます。

 今後、このような貴重な学びの機会であるワークショップを、僕自身も企画していきたいと思います。その目的は、なかなか学びにくいクリエイティビティの暗黙知の共有であり、受け取りなのです。

 みなさんもぜひ、思い切ってワークショップに参加してみてはどうでしょうか?