「あれ? あなた、新製品? 入荷したならそう言ってくださいよ」

 ……どうも。

「やだなー。暗いなー。世の中こんなんですけど、明るくぱーっと行きましょうよ。ぱーっと。私、Athlon X2の7750です。発売日からこのショップにずっといるんですよ。おたくは?」

 ……Phenom IIです。

「ええっー! なんでそんなに表情が暗いんですか。AMDファン期待の星、社運をかけて売り出す、新世代の超絶高性能CPUでしょ? もっと派手にアピールしましょうよ。ねえ、ペ」

 今、『ペンティアムツー』って言いそうになりませんでした?

「いえ。いえいえ。何ですかそれ?」

 ほんとに知らないの?

「知りませんよ。そんなファミコンカセットみたいな古いCPU」

 知ってるじゃないですか。何でこんな紛らわしい名前にしたんだろ。

「いいじゃないですか。Phenomの後継だってすぐ分かるんですから。私なんか中身がPhenomと一緒なのに、Athlon X2のままですよ」

 名前だけじゃないんです。

「は?」

 ナンバーですよ。私は940、その下は920。何か連想しませんか?

「Pentium Dそっくりのナンバーでイメージが悪いなんて、いくら何でも心配しすぎですってば」

 違います! 今940、920と言えば、Core i7に決まっているじゃありませんか。

「まあまあ。自信があるわけですよ、我らがAMDは。似たようなナンバーで圧倒的に性能が高いと言いたいわけでしょ?
 あなたは2万9000円? Core i7の940が5万5000円くらいだから、すごいコストパフォーマンスじゃないですか」

 出ませんよ。

「えっ?」

 Core i7-940と同じ性能は出ません。

「またまたそんなご冗談を」

 私のほんとのライバルはCore 2 QuadQ9400なんです。

「えー……」

 ま、Core i7は、マザーもメモリーもぜーんぶ買い替えないといけませんから、プラットフォーム全体の価格は私の方が安いのは間違いないんで、いいっちゃいいんですけどね。

「よおし! 上がってきた。その調子です! ここらへんでどーんとかましてやりましょうよ。確か、あなたは今までのマザーもこれから出てくるDDR3対応マザーも両方いけるとかいうAM3パッケージなんですよね? 主要なマザーボードはBIOSで対応済みだし、Phenom IIを買えばマザー替えても長く使える! これはAMDならではのセールスポイントですよ」

 私はAM2+です。

「へっ? 私と同じAM2+? AM3って話は?」

 AM3パッケージは検証が間に合わないとかで。

「良かったじゃないですか。その間は売れるってことですよ!」

 ところが、2月くらいにはAM3版が出てきそうだって話しなんですよ。

「さすがAMD! やればできる子だって、みんな言ってますもん」

 AM3版はラインアップは多いし、TDPは下がるし……

「えっ!? TDPはあなたも下がってるでしょ。『45nm版は期待しててください。電力も低いし』って我らがAMDは言ってましたよ」

 私、Phenomと同じ125Wなんです。

「……冬場にうれしい熱々ですね」

 あつあつ……。お客さんにそういう冗談は通じないと思います。まあでも、TDPって設計用の指標ですから、私、気にしてませんし。同じ125Wって言っても、初代のPhenomに比べたら、動作周波数は上がってますし!

「お、なんか自信が出てきましたね。その調子ですよ!」

 ただ、最高動作周波数は上がってるのにHyperTransportは下がってるんですよね。今さら3.6GHzがベストバランスだなんて言ってもねぇ。

「いやあ実にいい話だ。正直こそAMDの美徳。きっとAMDファンは全部分かったうえで買ってくれますよ」

 そうでしょうか。

「ほら、来た来た。お客さんが指さしてなんか言ってますよ。えーっと『どうせ値下がりするから待とうぜ』」

 待たずに買え!