これはいったいどういうことなのだろう。最近、映画館でオペラを観る機会が急激に増えている。当連載では以前にニューヨークのメトロポリタン・オペラによる「METライブビューイング」をご紹介した。また、しばらく前にはケネス・ブラナー監督のオペラ映画「魔笛」という話題作もあった。

 そして今回、ご紹介するのは「UKオペラ@シネマ」。ソニーが取り組むデジタルライブコンテンツ製作配給サービスLivespire(ライブスパイア)の一環として、英国のロイヤル・オペラおよびグラインドボーン音楽祭で上演されたオペラが、各地の映画館に配給される。Livespire とはLive(ライブ)とInspire(鼓舞・刺激する)の二語を組み合わせた造語。劇場で行われる舞台芸術やエンタテインメントを、デジタルシネマ作品として広く映画館で上映するという新しいサービスだ。

 現在発表されているラインナップは4演目。すでに東京では「カルメン」の上映が開始され、続いて「フィガロの結婚」「ヘンゼルとグレーテル」「ジュリオ・チェーザレ」と続く。指揮者と演出家、上演年などは以下のようになっている。

  • ビゼー「カルメン」 アントニオ・パッパーノ指揮、フランチェスカ・ザンベッロ演出(ロイヤル・オペラ/2007年)
  • モーツァルト「フィガロの結婚」 アントニオ・パッパーノ指揮、デイヴィッド・マクヴィカー演出(ロイヤル・オペラ/2006年)
  • フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」 大野和士指揮、ロラン・ペリ演出(グラインドボーン音楽祭/2008年)
  • ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」(ジュリアス・シーザー) ウィリアム・クリスティ指揮、デイヴィッド・マクヴィカー演出(グラインドボーン音楽祭/2005年)

 なかなか魅力的なラインナップではないか。先日、さっそく「カルメン」を新宿バルト9で見てきた。開幕の前に指揮者のパッパーノがカメラに向かって、作品について簡単に紹介してくれる(このあたりの演出は「METライブビューイング」と似ている)。この「カルメン」はキャストもすばらしく、演出も正攻法で細部までよく練られており、大変に優れた映像だった。終幕、ドン・ホセがカルメンを刺す場面など、これほど真に迫った演技は見たことがないというほど(おざなりに「刺す」人もいる)。全般に視覚的に役柄によく合った歌手が起用されているので、オペラ初心者の方でも無理なく楽しめると思う。幕間の休憩は1回。

「カルメン」で熱唱するアンナ・カテリーナ・アントナッチ(カルメン)とヨーナス・カウフマン(ドン・ホセ)<br>Photo by Catherine Ashmore<br>(C)Royal Opera House 2007 Provided by Digiscreen
「カルメン」で熱唱するアンナ・カテリーナ・アントナッチ(カルメン)とヨーナス・カウフマン(ドン・ホセ)
Photo by Catherine Ashmore
(C)Royal Opera House 2007 Provided by Digiscreen