通信機能もなければ、電子辞書機能もない。できることといったら、テキストの入力だけ。そんな“一芸製品”が売れています。文具メーカーのキングジムが発売したデジタルメモ機「ポメラ」です。文庫本サイズの本体に、折りたたみ式のキーボードを装備。フタを空けると、キーボードが開く仕掛けになっています。実売価格は約2万5000円。発売してまだ2週間ですが、売り切れ店が続出し品薄状態になっています。

 私が感心したのは、機能をテキスト入力に限定し、ほかをすべてそぎ落とした“潔さ”です。現代は、パソコンや携帯電話のように、何でもできる万能機がもてはやされる時代。普通に考えると、テキスト入力だけでは何のインパクトもありません。こんな企画を役員会議に提案しても、却下されるのがおち。事実、キングジムの役員会議で開発担当者が熱くコンセプトを語っても、総勢15人の中で賛成した役員はたった1人だけ。孤立無援状態だったそうです。

 ところが、賛成した役員が発した言葉が流れを変えます。「すばらしい。俺なら今すぐにでも買いたい…」。これを聞いた同社の宮本社長は「15人に1人の割合でこんなに欲しがる人がいるなら、世の中全体ではかなりの数になるかもしれない」と判断。ゴーサインを出したそうです。

 宮本社長の持論は「企画の採否は多数決で決めるな」。みんなが「何となくいいね」という製品はかえって危ない。たとえ少数でも熱狂的な支持者がいるほうが、売れる可能性が高いというのです。私も同感です。これまでにない斬新な製品は、多数決のシステムからは生まれません。何が何でもアイデアを実現しようとする開発担当者の熱意。その意図を理解できる経営トップ。この2つが必要条件だと思います。