ふん、なんだよ、あんなもん。
「なにを怒っているんかの?」
あれだよ、ネットブック!
「売れてるようじゃな」
画面は小さいし、オフィスソフトも無し。それで5万円でどこがうれしいんだ。モノによってはHDDが16GBだぜ?
「HDDじゃなくてSSDじゃろう?」
それに何だよ、あのAtomってのは。名前だけだよ強そうなのは。
「お前さんはCore 2 Duo P9500か。ノート用で2.53GHz。お前と比べたら、いくら何でもAtomがかわいそうだわな」
かわいそうなのは、高性能なのに売れないオレだろうが。
「自分より売れるのが気に入らん、と」
ち、違うよ。やっぱり『ノートって使えねえ』なんて思われたらヤだろ?
「Atomは使えんのか?」
そりゃインターネットくらい使えるさ。ネットブックなんだからさ。
「では聞くがの。ユーザーはパソコンを何に使っているんじゃ」
ま、普通は情報収集っていうかさ。ニュース見たり、ショッピングしたりメールしたりニコニコ動画見たり。
「Webブラウザーでできることばかり」
……。年賀状作ったり、デジカメ写真を印刷したり、ハイビジョンのエンコードしたり。
「年賀状や写真の印刷くらいネットブックでもできるじゃろ。そのエンコードはおまえさんでもキツいんじゃないのかね」
と、ともかく、Core 2 Duoの敵じゃない。性能が違いすぎる。本物志向のユーザーなら断然オレを選ぶね。
「レッツノートで使われている1GHzの超低電圧版Core 2 Duoと1.6GHzのAtomはどっちが速いのかの」
…性能はともかくさ、ネットブックって個性が無いじゃん。全部似たような形だしスペックだし。Core 2はバラエティーがあって選ぶ楽しみがあるよね。
「普通に使えるって分かるとまずいから、ネットブックはちょっとヘボい仕様で作ってくださいって、Intelがメーカーにお願いしているんじゃろう?」
えっマジ?
「さあ?当てずっぽうじゃよ。『お客さん。1個40ドルのCPU、ヘボく作ってくれたら10ドルにしちゃうよ!』なんてな」
リアルすぎるだろっ。
「ワシは昔からマーケティングだけは得意なもんでな。ホントのことは知らんよ」
安いって騒ぎすぎなんだよ。同じ値段でフルサイズのノートが買える時代に!
「君は店頭でいくらじゃ」
……4万5000円。
「あと5000円出せばネットブックが買えるの」
そんなに安いのがよけりゃ、Linuxでも積んで、もっと安くしろってんだ!
「全モデルをWindowsに統一してくれたら、共同広告を打ちますよ、うちの経費で、なんつってるOS会社があったりして。おっと当てずっぽうじゃよ?」
……。性能とか値段とかじゃないんだ。オレが許せないのは、中途半端さなんだよ! 消費電力が低いってんなら、すごーく小さなパソコンを作れってんだ。
「無理じゃろ」
なんで!
「今の消費電力じゃ高い高い。バッテリーが持たんよ。1時間か2時間しか使えない携帯型端末なんて嫌じゃろ」
だったらどーんとバッテリーを積んでデカくして……ダメか。どうしてもオレのカテゴリーと競合しちゃうんだよなあ。ま、向こうは来年にはグラフィックス機能とメモリーコントローラーと一緒になるらしいから、そこですみ分けできるんだろうけど、腹が立つなあ。向こうばっかり先進的になりやがって。
「大したことないのう。その程度」
だって、そんなCPU初めてだろ。あんた、悔しくないのか。ていうか、あんた、誰? やたら小さなマザーにのってるけど。G、E、O、D、E、L、Xって、ええっ!
「やっと分かったか」
ゲオデルX?
「バカモノ! AMDのジオードLXじゃ!10年も前からグラフィックスもメモリーコントローラーも内蔵しておる! かつての名前はサイリックスのMedia GX。機能統合と価格破壊の黒船と呼ばれたもんじゃ」
あー、やっと希望の光が見えてきた。
「おお、そう言ってくれるか?」
Atomも本流にはなりそうもないな。
「こっちを見て言うな」