10月27日からロサンゼルスで開催された、マイクロソフトの開発者会議PDCへ行った。5000人のプログラマーが全世界から集まり、それ以外にも企業関係者や技術者など1500人が参加、広いコンベンションセンターが狭く感じられるほどの人出だった。

 驚いたことに、少なくとも私にとっては、PDCの前と後とではマイクロソフトの印象がすっかり変わったような気がする。

 PDCの前は、Windowsのパッケージソフトで大きな儲けを得るばかりの古くさい巨大組織。オンライン戦略でグーグルに遅れを取っているのが明らかなのに、さしたる新しい手に出ることもなく、その一方でヤフーに攻撃的な買収をしかけるなど、いまひとつイケ好かない感じ。単純化してしまうと、そんなイメージだ。

 ところが、PDCでマイクロソフトが次々に行った発表がなかなかすごかった。「ソフトウエア+サービス」というのが同社の新しいテーマだが、これはデスクトップにインストールされるソフトウエアと、オンラインでアクセスするインターネット上のソフトやサービスを両立させて提供するという内容。マイクロソフトが今までバラバラと出してきたオンライン・サービスが、これではっきりとした枠組みに収まり、しっかりと説得力を得た感じなのである。

 「ソフトウエア+サービス」は、主に企業向けのエンタープライズ・ソフトに関する戦略だが、個人ユーザー向けにも同様のサービスを提供する。グーグルは、グーグル・アプリケーションで文書作成や表計算、メールなどのアプリケーションをすべてオンラインのサービスとして利用するのを可能にしてきたが、私としては、すべてがオンラインにあるというのは「便利なようで、やや不安」という感想がどうも拭えなかった。

 今回マイクロソフトは、「Live Mesh」や「Office Live」などのコンセプトを発表したのだが、これはデスクトップのデータとオンライン上のデータ、そしてモバイル機器のデータが自動シンクロし、常にアップデートされるようになるというものだ。こんな技術があると、デスクトップなのか、オンラインなのか、それとも移動中なのかという、自分の居場所を心配することなく、シームレスに仕事ができるということになる。

 もちろん、実際の製品やサービスの使い勝手や料金はまだ不明なので、本当にいいものか、使えるものかの判断はこれからだ。だが、これらが現実ものになればこれまでやってきた面倒な手順や、持ち歩いて来た重い荷物などがたくさん不要になるということである。そういうものが欲しかったのだ。

 今から思い返してみると、PDCの壇上で見せられたデモはどれもまるでSF映画で未来の生活を見ているようなものばかりだった。異なった機器間でのデータのシンクロなど、「そりゃ、そんなことができて当たり前でしょう」と思う一方で、「そうか、今の技術じゃまだできなかったんだ」と我に返る。デモを見ながらそんなことを繰り返していた。その意味では、マイクロソフトは本当に今必要とされているものを出して来たわけだ。

 マイクロソフトは、本当にポスト・ゲイツの新時代を歩み始めたのだなあと感慨深く思ったところである。