この秋、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が3年ぶりに来日を果たす。その来日を前に、ベルリン・フィルを題材とした2つのドキュメンタリー映画が公開される。一つはナチス政権下のベルリン・フィルを描いた「帝国オーケストラ」。もう一つは現在活動するオーケストラ・プレーヤーたちの一人一人の素顔を追った「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」(前者は10月下旬より、後者は11月中旬より渋谷・ユーロスペース他公開)。それぞれベルリン・フィルの過去と現在を描いた大変興味深い作品である。

 まず、「帝国オーケストラ」。こちらは1933年から1945年までのベルリン・フィルに焦点を当てる。つまりヒトラーがドイツ帝国の首相となり、第2次世界大戦を経て敗戦を迎えるまでのオーケストラの歴史である。ナチスの宣伝相ゲッベルスがヒトラー政権のプロパガンダのためにベルリン・フィルを利用したことはよく知られている。鉤十字の旗のもとで、当時の芸術監督フルトヴェングラーがベルリン・フィルを指揮している写真や映像をご覧になったことのある方も多いだろう。このドキュメンタリーでは、当時のベルリン・フィル団員およびその遺族らの証言を中心に、激動する時代の波に翻弄された音楽家たちが、当時何を考えて、どうふるまったかを明らかにする。

(c)SV Bilderdienst
『帝国オーケストラ ディレクターズカット版』 ベルリン・フィル創立125周年記念上映 第一弾
11月1日(土) 渋谷・ユーロスペース他全国順次ロードショー http://www.cetera.co.jp
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 といっても戦後60年である。当時の楽団員の生き残りがいるのか。監督のエンリケ・サンチェス=ランチは、2004年の時点で2人だけが生存していることを突き止め、取材に成功している。撮影時93歳のヴァイオリン奏者ハンス・バスティアンと、84歳のコントラバス奏者エーリヒ・ハルトマン。彼らはまさしくそのナチスの時代にベルリン・フィルの若手奏者として演奏活動を続けていたのだ。当事者の回想はとてつもなく生々しい。