今回の「プロフェッショナルが語る組織論 後編」では、話も佳境に。本コラム筆者の柳澤大輔氏が日頃から尊敬しているウェブクリエイターのお二人――福田敏也氏(トリプルセブン・インタラクティブ代表取締役)、田中耕一郎氏(Projector代表)に、より具体的に、仕事と組織の関係について語っていただきました。(編集部)

◆   ◆   ◆

●プロジェクトの動かし方
「良いネタを持ってるヤツのところには、良い仲間が集まる的なことがまた楽しいんですね」(福田)

1_spx200.jpg

柳澤 前回に引き続き、プロジェクトチームの話から始めたいと思います。プロジェクトチームを組んで、動かしていく場合、会社という組織で動くのとは、また別の難しさがあると思います。会社ならば、企業文化といった共通のルールがありますから、動きやすいという面もやはりある。社外とコラボレートするプロジェクトチームの場合も、あらかじめ一定のルールを決めて、動いたりするのでしょうか?

福田 企業文化って、会社文脈では大事かも知れないけれども、でもそれがなければまとまらないということじゃないと思う。最終的にアウトプットで評価される業種ですからね。大事なのは、そのプロジェクトを企んだ人が、ちゃんと良い企みを持って、チームのメンバーにきちんとぶつけることです。そうすれば、そのプロジェクトは必ず、まとまります。目標がはっきりしているから、みんながそれぞれ何をしなければいけないかがきちんと分析されて、浸透し、ポジティブに回っていく。
 逆に、目標が見えないと、何に向かうかが分からないから、どんどん効率が悪くなって、役割分担も曖昧になって、という悪循環が起こるんだと思うんですよ。田中君や僕の会社のように、分業しないタイプの会社だと、文化祭みたいなノリもある。良いネタを持ってるヤツのところには、良い仲間が集まる的なことがまた楽しいんですね。その結果、大企業には生まれないようなチーム文化のようなものがたぶん生まれている。それも固定的に1個じゃなくて、こっち側のチーム文化も楽しいし、こっちのも楽しいねということになってくる。それはそれで、大企業には真似のできない文化だと呼んでいいのかも知れない。

柳澤 なるほど。良い企みを持つ人って、きっと人もよく見ている人なんでしょうね。会社じゃなくて、人を見る。社内で、福田さんは、複数のチームを指導したりは?

福田 しません(笑)。社内に何人かクリエイティブディレクター的役割の人がいますから、基本は彼らに任せちゃう。僕は僕で仕事を抱えていますから、そっちでいろんな領域をカバーして、あれこれ開拓もしている。ほかのクリエイティブディレクターもそれぞれにいろんな領域を持っていて、新規開拓もしています。
 たまに一緒に仕事をすると、「ああ、良い人見つけたね」という話になるし、田中君のような社外の人と一緒に仕事をすると、また全然違うつながりが生まれたりとかもする。結局、社内も社外も、インディペンデントな関係で動いていると言って良いかも知れない。

柳澤 何か、社内のコミュニケーション上のルールのようなものは作っていないんですか。毎月第何週には、昼食会をするとか(笑)。

福田 そこも適当です(笑)。ただ、面白そうな仕事は、できるだけ全員でやるようにはしていますね。

柳澤 やっぱり面白さがキーワードなんだ。

福田 冷蔵庫に、賞味期限切れの飲み物などを入れておくなとか些末なルールはありますよ(笑)。あと僕は、個人的に決めているルールがあるんです。もう老い先短いので(笑)、自分の年代がやらなければならいないことは、できる限り労を惜しまずやろうと。例えば、ウェブ広告の審査に参加してくれと言われたら、断らない。講演に来てくれとか、教えに来てくれと言われても、まず断りません。逆のそのたぐいのことで、会社に迷惑がかかることは、絶対にないようにしています。

2_spx200.jpg

田中 ルールというのではないかも知れませんが、僕は、新しくフリーになった人とは、率先して仕事がしたいと思っていますね。この前言われたんですけれども、会社を辞めたら、Projectorに連絡すると良いんだそうです。確かに、僕はフリーになった人にすぐ仕事を出すケースが多い。会社を辞めたというメールが来たら、返信メールで、仕事のお願いをしちゃうんです(笑)。

柳澤 どういうワケで?

田中 もちろん、基本的にずっとその人と仕事をやりたいという気持ちがあるからですけれども、その人が、会社に勤めていると、そういう気持ちは、ちょっと下がるんです。その人が独立して、フリーランスでやるという時に、じゃあ一緒にやろうという気持ちが昂揚してくる。自分自身が、独立してやってるからだと思うんですけれども。

柳澤 独立してすぐって、モチベーションも高いでしょうね。

田中 そう、相手のモチベーションがものすごく高いので、一緒にやっていて楽しいし、結果的に、作品も良い仕上がりになることが多いんです。それに、フリーになって最初の仕事って、絶対にその人の記憶に残るでしょう。そこを共有したいと思うんですね。
 もう一つは、「この人と仕事をすると、たぶん振り回されるだろな」という感じの人とできるだけ一緒にやりたい。振り回されそうとか、自分が変わりそうな感じの相手です。何度も一緒にやって、この人となら、作品の仕上がりはこうなるなと読める人も、安心感があって良いんですよ。でも、それとは別に、作品の仕上がりがどうなるか予測できないような人とも一緒にやって、自分がいままで作ってきた作品の範疇を超えた仕事がしたい。
 自分だけで明確なビジョンを描けるタイプの人は、そんな必要はないんでしょうけれども、僕はそういうタイプじゃない。人のビジョンを取り込んでいくタイプなので、いままで出会ったことのないセンスとか、ビジョンを持ってる人と仕事をして自分の可能性を広げていきたいんですね。

柳澤 そういう新しいことへのチャレンジは何より「面白い」ですよね。

田中 面白いですね。そういう意味で、必ず90点~100点いくぞという感覚よりも、振り幅がありそうな相手のほうが魅力的です。ものすごくうまく行くと120点の可能性もあるし、ダメな可能性もある。だから面白いんです。