ここ数年、大きな進化が見られなかった無線LANだが、2012年は動きがありそうだ。最大の話題は、米国電気電子技術者協会(IEEE)が策定を進めている次世代の高速無線LAN規格「IEEE 802.11ac」(以下、11ac)。11acは、6GHz以下の周波数帯を使い、1Gbps以上の通信速度を目指すもの。現行のIEEE 802.11n(以下、11n)の速度上限である600Mbpsを超える(図1)。

●ギガビット通信を実現する次世代規格「IEEE 802.11ac」
図1 注目は、策定中の無線LAN規格「IEEE 802.11ac」。最大通信速度は1Gbps以上になる。2012年にドラフト 2.0、2013年に正式規格が策定される見通しだ
図1 注目は、策定中の無線LAN規格「IEEE 802.11ac」。最大通信速度は1Gbps以上になる。2012年にドラフト 2.0、2013年に正式規格が策定される見通しだ
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 11nでは、複数の送信路(ストリーム)を使いデータを送る「MIMO(multiple input multiple output)」と呼ぶ技術と、周波数帯を束ねて送信データを増やす「チャンネルボンディング」という技術を活用して高速化を図っていた。11acでは、これらの技術をさらに強化。具体的には、MIMOの最大ストリーム数を4から8に、チャンネルボンディングの帯域幅を40MHzから80MHz(または160MHz)にそれぞれ引き上げる。

 11acで新たに採用する「マルチユーザーMIMO」にも期待が寄せられている。マルチユーザーMIMOとは、子機の数やアンテナに応じて、通信する親機のアンテナを割り振り、複数の機器と同時に通信できるようにする技術(図2)。無線LAN機器をたくさんつないだ環境で、データ転送効率が高まる。

図2 11nのMIMO技術は、同時に1台しか通信できず、複数の子機とは交互に切り替えて通信する。また子機のアンテナ数によっては、親機のアンテナが余る場合があった。一方11acは、子機の数やアンテナに応じて親機のアンテナを振り分ける
図2 11nのMIMO技術は、同時に1台しか通信できず、複数の子機とは交互に切り替えて通信する。また子機のアンテナ数によっては、親機のアンテナが余る場合があった。一方11acは、子機の数やアンテナに応じて親機のアンテナを振り分ける
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 11acの規格策定は2013年になると見込まれる。ただ、2012年にドラフト 2.0規格の承認が予想されており、動向が注目される。11n規格では、正式規格の策定前にドラフト規格の対応製品が登場した経緯があるからだ。米国の調査会社であるインスタットは「2012年末までにIEEE 802.11ac規格に対応した製品が登場する」と予測する。

 無線LAN対応の機器も広がる兆しを見せる。バッファローコクヨサプライは「Wi-Fi Direct」に対応したワイヤレスマウスを2011年12月に発売した(図3)。Wi-Fi Directは、無線LAN機器同士をアクセスポイントを使わずに結ぶ規格。ノートパソコンなどに内蔵された無線LANでつながるので、一般的な無線マウスと違ってUSB接続のレシーバーは不要だ。Wi-Fi Directは、デジタルカメラの写真をプリンターで直接印刷するなど、さまざまな用途を想定している(図4)。

●無線LANで機器を直接結ぶ「Wi-Fi Direct」
図3 バッファローコクヨサプライが発売したWi-Fi Direct対応マウス「BSMLW15D」シリーズ(実勢価格は3700円)。USB接続の専用レシーバーを挿さずに使える
図3 バッファローコクヨサプライが発売したWi-Fi Direct対応マウス「BSMLW15D」シリーズ(実勢価格は3700円)。USB接続の専用レシーバーを挿さずに使える
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図4 Wi-Fi Directは、IEEE 802.11a/b/g/nに対応した無線LAN機器同士をつなぐ規格。無線LANのアクセスポイントを介さずに、データを直接やり取りできる
図4 Wi-Fi Directは、IEEE 802.11a/b/g/nに対応した無線LAN機器同士をつなぐ規格。無線LANのアクセスポイントを介さずに、データを直接やり取りできる
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