渡辺 勝弘、園田 道夫、有限会社タプレ

 結婚詐欺というとむかしからある詐欺で、なにを今さらと思うかもしれません。ところがどっこい、今でも実際に行われているのです。出会い系サイトができたことで、異性と知り合う機会は大幅に増えました。その影で、むかしながらの詐欺があることを知っておいてください。

 OLの羽田さん(仮名)は、出会い系サイトで大崎と名乗る男性と知り合いました。某大手銀行に勤めている30代半ばのサラリーマンとのこと。忙しくて女性と知り合う機会がなく、時間があるときに出会い系サイトを見ているそうです。

 メールをやり取りしているうちに、丁寧な言葉遣いといつも誠実に答えてくれる彼の姿勢に惹かれ、会って話をしてみたいと思うようになりました。

 ただ、彼は会おうとは言いません。そこで、思い切って羽田さんから誘ってみました。すると、彼からこんな答えが返ってきました。以前出会い系サイトで知り合った女性にだまされたことがあるので、出会い系サイトで知り合った女性に対して慎重になってしまうとのこと。彼の気持ちが理解できたので、しばらくは普通にメールをやり取りしていました。

 そんな羽田さんを信頼してくれたのか、しばらくして彼のほうから食事への誘いがあり、二人は会うことになりました。

 彼が予約してくれたレストランで食事と会話を楽しみながら、それとなく彼をチェックした羽田さん。少し冴えない感じですが、身なりは整っていて清潔感があり、誠実な印象を受けました。最初はお互い緊張気味でしたがすぐに打ち解け、次回会う約束をして別れました。

 忙しい彼の予定に合わせて何度か会ううちに、テンポのいい彼の話に引き込まれ、次第に惹かれているのが分かりました。将来住みたい場所、子供の数や育て方などの話題になることもあり、羽田さんも心のどこかで結婚を意識している自分に気付きました。ただ気になるのは、彼の仕事のことを聞くたびに「他人には口外できない」と言って、話そうとしないことでした。

 そんな彼がある日、こう切り出してきました。「銀行は裏で消費者金融とつながっているんだ。消費者金融への返済ができない人が増えているけど、これまで優良だった顧客には銀行が融資している。実は自分はその部門の責任者なんだけど、今月は少しノルマが達成できそうになくて困っているんだ」。

 さらに続けて「申し訳ないんだけど、融資させてくれないかな。といっても借りた振りをするだけでいいんだ。事務手続き上、消費者金融から借りてもらう必要があるけど、手続きが終わったらすぐにぼくから消費者金融と銀行に返済するので、それまでお金を預けて欲しい。10%くらいは謝礼を出せると思う」。

 結婚を意識している羽田さんは、言われるがままに消費者金融で100万円ほど借り入れ、彼に渡しました。いつものように自宅まで送ってくれた彼は「来月になったら連絡するから」といって帰りました。それから一週間ほどして、普段どおり携帯電話にかけたところ、全くつながりません。メールを送ってもあて先不明で戻ってきます。最寄の駅しか聞いてなく、自宅も分かりません。それっきり音信不通になってしまいました。

 こうして、手元には消費者金融から借り入れた借金だけが残り、毎月給料の半分は返済に消えてゆき、借金のために働く毎日を過ごしています。

 結婚を意識していると難しいかもしれませんが、お金の話をしてきたら一度疑ってみる、あるいは自分が相手のことをどこまで知っているかを確認する冷静さを持ちたいものです。

  お金の話が出たら、冷静になれ!

イラスト:きよすけ、笹野 喜嗣