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松浦晋也「人と技術と情報の界面を探る」

さらば水金地火木土天海冥

松浦 晋也=ノンフィクション・ライター 2008/04/15 日経パソコン

 2004年1月、ブッシュ米大統領は新しい宇宙政策を発表した。スペースシャトルは2010会計年度末(つまり2010年9月30日だ)で退役。国際宇宙ステーション(ISS)はそれまでに完成させる。そして2010年代後半にアポロ計画以来の有人月着陸を実現し、恒久的な有人月基地を建設する。その先には有人火星探査を目指す――つまり、それまでのスペースシャトルとISSを中心に据えた路線を大転換して、月へ、そして火星へという1960年代にNASAが目指した路線に復帰すると宣言したのである。

 今や米国は、月に行くための新型有人宇宙船「オライオン」にどんどん予算を投入しはじめている。

 おお、アポロ計画のその先を目指すのか。素晴らしい。そう思うだろうか。

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2004年1月14日、ブッシュ米大統領は、新しい宇宙政策を発表した。日本では内閣総理大臣が宇宙政策を発表することはない。このことは日米の宇宙に対する力の入れ方の差を表している。(Photo by White House)

 ここで話題は急展開して、太陽系の惑星の話。

 水金地火木土天海冥という太陽系9惑星が、8惑星になってしまった、という話はかなり多くの人がご存知と思う。2006年8月、チェコのプラハで開催された国際天文学連合 (IAU) 総会は、大激論の末に、冥王星を惑星からはずすことを決定した。冥王星は新たに作られたdwarf planet(準惑星)という区分に入ることになった。

 当時、新聞やテレビなどのマスコミは「冥王星が惑星でなくなった」ということばかり強調していたが、ことの本質はそんなところにはなかった。「観測技術の進歩で、新たな太陽系像が描けるようになった」ということこそが、重要だったのだ。

 21世紀に入ってから、観測技術の進歩により、冥王星よりも遠くに次々に太陽を回る星が見つかるようになった。それらは小惑星のように小さくなく、直径1000km以上あった。特に2005年に発見されたエリスという星は直径が2400kmもあり、直径2300kmの冥王星よりも大きかった。

 冥王星は太陽系の端にぽつんと1つだけあるのではないらしい。太陽から遠く離れた冥王星のあたりには、冥王星のような星が多数存在していて、冥王星はそれらの中でたまたま1930年という早い時期に見つかったに過ぎないことが分かったのだ。

 つまり、太陽系は、「水金地火木土天海冥」ではなかった。「水金地火木土天海に冥王星みたいな星多数」、というものだったのである。

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冥王星の外に次々に見つかった星と地球の対比図。エリス(左上)は冥王星(中央上)よりも大きく、ディスノミアという衛星を従えている。(Photo by NASA, ESA, and A. Feild [STScI])

 それだけではなかった。1990年代から、人類はぼつぼつと彗星や小惑星に探査機を送るようになった。日本も小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げ、2005年には小惑星イトカワを探査したことは記憶に新しい。

 それら探査機の観測結果から、彗星や小惑星が思いのほか変化に富んだ、科学的に興味深い場所であることが分かってきた。つまり、太陽系は「水金地火木土天海に冥王星みたいな星多数」というだけですらなかった。「水金地火木土天海に冥王星みたいな星多数、さら小惑星と彗星も多数」というのが太陽系の姿だったのである。

 もちろん、今後の観測技術の進歩で、もっともっと太陽系の姿は書き換えられていくだろう。今や「水金地火木土天海冥」は、20世紀の古い太陽系像なのだ。

 話は最初に戻る。米国の新宇宙政策、「まず月に行き、次いで火星に行く」というのは、実のところ「水金地火木土天海冥」という古い20世紀の太陽系像に基づいたものじゃないだろうか。「月、火星」という攻略順序は、先入観なのではないだろうか。

 月にせよ火星にせよ、太古より地上から見ることができた天体であり、我々には親しみがある。しかし最新の太陽系像が教えてくれるのは、「地上から見えているのが、太陽系の全てではない」ということだ。

 「月に行く」などと拙速に決定するのではなく、人類は本当はどこに向かうのが一番得るものが大きいのか、新しい太陽系像に基づいてじっくり考えたほうがいいんじゃないだろうか。

 例えば、だ。

 実は月は地球に一番近い天体ではない。というと「何ウソ書いているんだ」と言われるかもしれない。確かに距離では、月は地球に一番近い天体だ。しかしエネルギーで考えるとそうではない。月には地球の1/6の重力がある。月面に降り、また上がってくるためにはけっこうなエネルギーが必要だ。

 特異小惑星と呼ばれる一群の小惑星の中には、地球に非常に近い軌道を巡っているものもある。こんな小惑星の表面は、エネルギー的には月面よりも地球に近い。小惑星は小さいので、ごく微弱な重力しかない。月のようにエネルギーを使わなくても表面に到達できるのである。もちろん、距離は遠いので宇宙飛行の期間は長くなる。それでも目標の小惑星を選んでいくと、数カ月という今の技術でも人間が行けそうな時間内に、小惑星に到達することができる。

 現在、米国の科学者の一部は、「新しい有人宇宙船を使って、月などではなく、小惑星に行こう」というプランを作成している。その方が月面に降りるよりも科学的な成果がずっと大きいというわけだ。米国の宇宙政策は大統領が代わると大きく変化するものだ。だから、来年の新大統領就任のタイミングを狙い、路線変更を促そうというわけである。

 日本は今、米国の有人月探査計画に参加する方向で検討しているが、本当にそれでいいののだろうか。私達はどこに向かうべきなのか、最新の情報に基づいてよくよく考えてから決めるべきだろう。でなければ、「月に莫大なお金をかけていったはいいが、なにもなかった」ということになる可能性があるのだ。

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