大変遅ればせながら最近知ったのだが、ローレンス・レッシグが研究の対象をすっかり変えるのだそうである。

 レッシグといえば、スタンフォード大学法学部教授で、著作権問題、つまり各国で著作権の保護期間がどんどん長くなり、後世の技術開発や創作活動の自由度を狭めているという問題について、挑戦的な問題提起を行ってきた人物である。問題提起を行うだけでなく、アクティビストとしてクリエイティブ・コモンズという組織も作り、バカバカしい現状に対抗する運動も行ってきた。

 レッシグはこの10年来、世界各地をめぐって著作権問題を語って共有意識を広げてきたのだが、これからは「コラプション(腐敗)」問題に乗り換えるのだそうだ。

 腐敗は、いろいろなところに見られる。そもそもこの問題に関心を抱いたきっかけは、著作権問題を研究するうちに、世界各国の政府が当初の著作権保護期間をどんどんのばしていくのはおかしいと気づいたことだったという。今や100年近くにまで延長されている国もある。こうしたことが起こるのは、政治プロセスの腐敗だと言うのだ。

 腐敗が見られるのは、金に影響されることが当たり前になっている政治世界だけではない。アカデミックの世界にも腐敗はある。どこかの企業が「○○○の研究のためにこの助成金を寄付する」とやってくれば、その研究者はどこかで金に左右されていないと断言できない状況に追い込まれることもある。ジャーナリストにも腐敗はある。

 レッシグは、まず腐敗とは何かを広く理解し、その後でそのリフォームのための動きを始めたいと語っている。いずれにもネットをかなり利用するつもりらしい。ちょうど著作権問題のリフォームのためにクリエイティブ・コモンズを設立して、クリエーターが自分の著作を社会の共有財産として開放できるシステムを考案したように、腐敗問題にも何かのシステム作りをするのだろう。研究者だけでなく、アクティビストとして動くあたりが、このレッシグという人物の非常に興味深いところである。活動する研究者に、私は非常に感銘を受ける。

 彼の話を直に聞いたことがある人ならば知っているかもしれないが、レッシグのプレゼンテーションはかなりおもしろい。著作権のような、わかりにくく地味な問題がこれほどわかりやすく共有されるようになったのは、彼のプレゼンテーション能力によるところも大きいと思う。パワーポイントも話の流れも、実にエンターテイニングなのである。

 腐敗のような巨大な問題が、レッシグ流にはどう調理されていくのか、楽しみなところだ。