日経パソコン2006年6月26日号のコラム「ワカれば楽しいコンピューター」で「DVDの寿命は10年ほど」と軽く触れたところ、「ホントですか!?」という驚きの投書を何通かいただいた。どうやらDVDが永遠にもつと信じている方は少なくないようだ。結論から言うと、DVDによる思い出の永久保存は一種のIT神話。メディアによっては何十年ともつ可能性もあるが、安物だと10年もつかさえ疑問だ。そもそも、DVDなど光メディアの寿命はどうやって決まるのだろうか。

 実は、現状でDVDメディアの寿命すなわち「データが読めなくなるまでの期間」を示す明確な数値は存在しない。「寿命○年」と明示した製品は店頭で見当たらないし、メーカーに聞いても「条件によっては100年以上もつが、標準的な状態では数十年」(太陽誘電)と歯切れが悪い。業界団体の日本記録メディア工業会が出している指標も「10年以上」とあいまいで、TDKなどもこの数字をなぞっている(下図)。

【10年以上と言われるが詳細は不明】
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業界団体の日本記録メディア工業会やメーカーは「10年以上」と少しあいまいな表現でDVDの寿命を示している(画面はTDKのWebページ)。しかも、この数値は推定であり、保存の状態によっては短くなる可能性もあるという

 もちろんメーカーには明確に答えられない理由がある。最大の要因は、寿命を測定する確実な方法がないこと。技術的に難しいだけでなく、測定方法に統一性がないのだ。各社独自の基準で寿命を主張してもユーザーは混乱してしまうだろう。

やはり10年以上だった

 統一された測定法と寿命品質の判断指標があれば、ユーザーは安心してメディアを購入できるはず。そこで国内の業界団体が中心となり、DVDメディアの測定基準を作ろうという動きが活発化している。その一つが、財団法人デジタルコンテンツ協会(DCAj)による寿命測定の研究だ。2006年3月には、2005年度の研究を取りまとめた報告書を公表した(下図)。

【デジタルコンテンツ協会によるDVD寿命試験の報告書】
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デジタルコンテンツ協会(DCAj)は寿命測定法の標準化を目指し、DVDメディアの寿命測定をしている。上は2006年3月にまとまった2005年度の報告書。報告書の要旨PDFを公開中

 この報告書にはそのものズバリ、DVDメディアの寿命測定結果が示されている。テストしたメディアは、量販店などで市販されている国内および海外メーカーのDVD-RとDVDRW、DVD-RAM、計10数種類だ。

 結果を見ると、温度25℃での推定寿命はDVD-Rが15~178年でDVDRWが45~4万9000年。温度30℃だともう少し短くなり、DVD-Rが9~74年、DVD-RWが27~1万1000年、DVD-RAMが134~250年だ(25℃のDVD-RAMはデータなし)。湿度はいずれも80%を想定。日本の夏の最も蒸し暑いころの湿度である。

DCAjの報告書で示されたDVD-R、DVD-RW、DVD-RAMの測定結果。10年から数万年とかなりの幅がある

 最大で数万年とはにわかには信じがたいかもしれないが、DVD-Rの最低9年(30℃)という数字は従来の俗説を裏付けている。ただ、ここには寿命が計測不能だった粗悪メディアは含んでいない。実際には、規格上は寿命0年という粗悪な海外メディアもあった。詳細は後日公開する「寿命ゼロのメディアが存在するワケ」「粗悪品判定実験の結果」で述べるが、国産メディアに限った大まかな目安と考えた方がよいだろう。

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