連載開始から1周年企画、ほぼ日刊イトイ新聞の糸井重里さんへのインタビュー後編です。ほぼ日がどうやって事業として成り立っているのか、ほぼ日から生まれる企画が重視している点とは?糸井さんのお話の中から飛び出したキーワードと合わせてお伝えします。(編集部)

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 ●ほぼ日的メディア論
「成功だったように見えている失敗を分析するのが好き」


柳澤 うちもかなりたくさんのサイトを作ってきているんですが、「ほぼ日」はすごいページビューを生み出しているサイトなのに、広告って全くないですよね。これが不思議というかすごいというか。

糸井 ほぼ日のコンテンツ自体が人を呼ぶ広告なんだと思うんですね。巨大な自社広告の山。皆、サイトの広告料金をおおげさに考えすぎているような気がします。

 例えば、「いまさらフラガール!」(注3)という企画があったんですが、どこからも対価はもらってない企画なんだけれど、「ああ、映画は終わったけどDVDがまだ売れるもんな」と勘ぐる人はいるわけです。そういうことではなく、話したりないからもっと話したいっていう企画だったんですが。

 だいたい、お金をもらってその程度の宣伝をしてどうするのかと。タイアップみたいなもの、広告代理店ならもっとうまくやるのかもしれないですけれどね。

 目の前にある金額のことを言っているのではなくて、そういうことやったら結局損をすると思うわけです。自分たちがやりたいこととしてやる方がリッチなんですよね。信用を育てているわけだから。

 ただ、アマゾンのアフィリエイトはやってみました。うちの場合、そこそこの金額になったみたいですが、そこで売るために企画をやっているわけではないので。

 それから、ずっと昔、ほぼ日がまだうまくいくかどうかわからないというときから任天堂と組んだ企画(注4)はあります。これは広告としてわかるように作っているし、ずっと続けていきますから。

柳澤 「Google Adsense」って最初は、美的感覚からするとサイト運営者側としては、入れたくないんですよね。でも、例えば月100万ページビューくらいのサイトで実験的に、美的感覚は脇に置いて、Google Adsenseをおいてみたんですね。

 とりあえずお金は入ってくる。そうしているうちにゲーム感覚で、いつしかどの位置においたら一番クリックされるのか?というのが楽しくなってきて、そうなると美的感覚というよりも、ここにAdsenseおいたらもっと効果的なんじゃないかとか、視点が変わってきてしまう。そして前ほどGoogle Adcenseが気にならなくなる。数字をみてるのが楽しくなってくる。不思議です。

糸井 100万PVのサイトを維持するための手間と人を抱えるコストは大変だと思うんだけれど、結局、お客さんが喜んでくれるかどうかが一番重要ですよね。広告や物販をやってお客さんが喜んでくれるならやりますし。

柳澤 いろいろオファーはあるんじゃないですか?

糸井 怖がられているからなのか、全然ないんですね(笑)。基本的にうちは攻める方なんで。ある人からは「ほぼ日は孤独なサイトという感じがする」って言われたことがあります(笑)。

柳澤 どうやって収入を確保し続けているんですか?うちもよく言われるんですけど(笑)。

糸井 僕らが考える一番重要なところはコストの考え方だと思います。例えば、大学教授の授業って、1コマ5000~7000円くらいだそうです。それなら中沢新一さんがずーっとしゃべる(注5)という企画は入場料7000円に設定していいじゃないかと。一般的には大学教授の話は1500円くらいだという人もいるけれど、僕らは僕らの考え方で値段を決める。一般的かどうかではなくて、適切かどうかで判断しているんですね。だから赤字の企画ってほとんどないです。

 あ、でもカレー部例会(注6)は8000円かかるところを3500円にしてちょっと大変でしたけど。

 そもそもブログはどれくらい流行るか、どのくらい世の中に広がるものなのか。普通はある企画をやるときに、TVとブログを一緒にやろうとするからすごーくコストがかかるわけです。だから、カレー部例会では伝えるメディアをブログだけにしてみた。でもそれは結果として失敗だったと思うんですよね。

 テレビとブログをシャッフルするような企画はブログだけがうれしいんじゃなくて、本当はテレビもうれしかったはずなんです。だったら、テレビにも声をかけてみればよかった。

 こういう、成功だったように見えている失敗を分析するのは僕は好きですね。

柳澤 成功だったように見える失敗、ですか。うちの社員でカレー部例会、応募したけど落ちちゃったのがいたのを思い出しました(笑)。

糸井 僕の場合、計画的に粛々と進めるというよりも、乱暴に推し進めてきた経験の方が長いから、自分の思いを伝える言葉とそれを実現させるために必要となる言葉のバイリンガルですね。変化をおそれないでいることも大切だけれど、何より失敗したときのことを考える。そうやって少しずつ軌道に乗せていけばいいと思うんです。


注3 いまさらフラガール!おくればせながら、応援します。 http://www.1101.com/hulagirl/index.html
注4 樹の上の秘密基地 http://www.1101.com/nintendo/index.html
注5 はじめての中沢新一 http://www.1101.com/nakazawa/
注6 カレー部例会 http://www.1101.com/curry_club/index.html