ケーブルが1本の場合、一度に一人の相手としか通信できそうにありません。ところが、1本のケーブルで複数の相手と通信する方法があるのです。これが多重化です。

 多重化は、たくさんの信号をまとめて伝送する技術です。大きく分けると、三つの方法があります。周波数の違いを利用する方法、時間の違いを利用する方法、そして信号自体を「色わけ」によって区別する方法です。

周波数や時間の違いを利用する

 1本のケーブルに二つ以上の信号をそのまま重ねて送ると、送る途中で混ざってしまい区別できなくなります。そこで、信号を区別する工夫を施すことで、1本のケーブルに複数の回線を設けることができるのです。こうした回線を「チャネル」と呼びます。多重化とは一つの物理的な伝送路に、複数のチャネルを設けることにほかなりません。

 具体的にはまず、複数に分割した周波数帯域を、それぞれのチャネルごとに割り当てる方法があります。これは「周波数分割多重化」(FDM)と呼ばれています(pict.1)。

 この方法は、現在のテレビ放送などのアナログ信号の多重化に適しています。テレビでは、同じアンテナで受けた電波からいろいろな番組を選んで見ることができます。これは、放送番組の信号の周波数を変えて送っているからです。通信分野でも、以前のアナログ伝送時代にはもっぱらFDMが使われていました。

 これに対して、複数のチャネルの信号を一定の時間間隔で、一つずつ順番に送る方法があります。これは、時間を分割して利用するため、「時分割多重化」(TDM)と呼んでいます。

 この方法は、デジタル信号の多重化に適しています。信号を飛び飛びに送ると、音声やテレビ映像が途切れると思うかもしれません。ところが、時間間隔をうんと短くすれば、人間には気づきません。もともとデジタル信号は、パルスで飛び飛びに伝送しているのです。これが、デジタル信号に時分割多重化が適している理由です。今では、通信ネットワークや携帯電話もデジタル化が進み、時分割多重化が全盛です。

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 周波数分割多重化(FDM)では、送りたい信号をチャネルごとに違う周波数に変調して、これらを一緒にして一つの信号にします。その結果、多重化した後の信号の周波数帯域は広くなります。具体例を挙げましょう。テレビ放送では、第1チャネルから第3チャネルまで放送するのに、90M~108MHzの周波数を使います。テレビの1チャネルの帯域は6MHzなので、3チャネルを周波数分割多重化すると、
3[チャネル]×6[MHz]=18[MHz]
の帯域が必要になります。これはちょうど、90M~108MHzの幅である
108[MHz]-90[MHz]=18[MHz]
と一致します。
 時分割多重化(TDM)では、まず各チャネルごとに信号を8ビットずつ区切って、圧縮してまとめます。そして、1チャネルずつ時間をずらして送り出すのです。こうすると、1秒間に伝送するビット数が増えるので、伝送速度が高くなります。