今回は、「術のデザイン」が形にしたグッドデザインプロダクトをご紹介しよう。

この問題を語るためにまず、この製品を紹介したい。それは、レンズ、ファインダー、シャッターさえ機能すれば、撮影はできる。この極めて合理的、かつ単純な発想で開発された、レンズ付きフィルム「写ルンです」である。

フィルムにレンズを付けるという逆転の発想は、当時まだなかった新領域デザインとして、そしてビジネスモデルのデザインとしても画期的なものだった。コア技術へ究極回帰して成功した、「単純は発明の母」のお手本である。

その原型は、1973年に意匠登録申請された「固定焦点ボックスカメラ」だが、初代写ルンですが実用化されたのは、それから13年を経た86年のことである。そこには、同社の技術開発にかけた努力が当然のように存在した。ブラスチックの成形技術が進歩したこともあるが、ポイントは時間帯や天候など、撮影条件に左右されないフィルムの開発に成功したこと。当初採用されていた小型カメラ用の110フィルムを、翌87年から35mmに切り替えたことで、より高いクオリティの写真が保証されることになった。また、使用済みカメラ部品のリサイクル体制の検討もこの時期、同社によって進められていた。画期的なデザインの背景には、同社のコアコンピタンスが明確に息づいていたのである。

もう一つ、この「写ルンです」は、ブランドのデザイン、コミュニケーションデザインとしても優れていた。そのハウジングデザインは、緑と金の地に赤のラインを施したもの。そう、カラーリングが、フィルムのパッケージそのものなのである。富士フィルムが培ってきた品質へのこだわりを、「直球勝負」でアピールするというこの潔さも心地良かった。

こうした「術のデザイン」が形にした本年度のグッドデザイン金賞に、三洋電機の充電式ニッケル水素電池「eneloop」がある。

一見、乾電池。しかし、充電池。ニッケル水素電池「エネループ」の真骨頂は、電池を使い捨てずに何度でも使えるというエコデザインとしての評価以上に、放電しにくく、長期使用に耐える、本格的な「乾電池型充電池」という新方式を、新技術、新材料の採用により形にした、その新領域でのデザイン性にある。約千回の繰り返し充電に耐え、継ぎ足し充電でもエネルギー効率が落ちないという優れた特性は、放電の原因となる窒素酸化物の排除と吸着技術の採用という、「術のデザイン」がもたらしたものである。

また、同じく金賞を受賞した、ソニーの携帯型 リニアPCMレコーダー「PCM-D1」も、ソニーのお家芸である音響デジタルテクノロジーを結集したレコーダーである。それが、何ともアナログなヒューマンウエア感覚でデザインされている部分にこそ、この製品の特色と美質がある。微細な音まで集音可能な高感度内蔵ステレオマイクや、駆動ノイズが発生しないフラッシュメモリーの採用など、その性能はプロの録音エンジニアからミュージシャン、音録りマニアまで、幅広いニーズに応えることが可能。記録した音声はUSB接続でパソコン転送もできるため、オリジナルCDの制作などにも重宝しそうな優れものである。それをアナログレベルメーターやアーチ型のマークガードでくるんだセンスこそ、愛着というもう一つの品質を発信できた秘密だろう。

三つ目の推薦製品は、パイオニアのPower Line Sound System 「music tap」だ。「音楽の蛇口」の名が冠されたこの商品は、電源コンセントの中に音楽信号を送ることができるPLC技術を用い、新しいオーディオのあり方を提案した画期的なプロダクトである。工事もいらず、手持ちの機器を買い換えることなく、家のどこかのコンセントに接続するだけで、好きな時に好きな場所で音楽を楽しむことができる。上向きのスピーカーユニットも、拡がり感のある音場づくりに貢献しており、インターフェイスも、ボタン数を可能な限り減らし、ピクトを多様した分かり易いデザインでとなっている。近づくだけで音楽がスタートするモーションセンサーの効果的な採用にも、手を触れることなく音楽を視聴できるユーザーへの配慮が感じられる。まさに、人にやさしいITの、日本らしい成果と言えよう。