地域通貨によって住民同士の相互扶助が活発になると前回はお話ししましたが、これから訪れる格差社会では、その相互扶助が非常に重要になります。

GDPは「幸せ」を計れているか

 平均年収を都道府県ごとに比較すると、東京がもっとも高いといわれています。では、東京が日本で一番豊かな暮らしをしているのかというと、そうとも言い切れません。都心では、駐車場代やマンションの管理費だけでも毎月10万円近い出費になるでしょう。隣近所とのつきあいも希薄なので、セキュリティ会社にお金を払って防犯対策をしなければならないし、「おすそわけ」をもらうこともないので食品はすべて買ってこなければなりません。自由になるお金を比べたら、東京と地方と、どちらが大きくなるでしょうか。ここに、格差社会を豊かに生きるためのヒントがあります。

 国の豊かさを測るのに、最近ではGDPに代わってGPI(Genuine Progress Indicator)という指標が用いられるようになってきました。GDPは市場を通る経済活動しかとらえることができませんが、GPIはボランティア活動や家事といった市場に出ない経済活動も含みます。日本はGDPではアメリカに次いで世界第2位ですが、GPIだと先進国で最下位になってしまうのだそうです。

 また、ブータンという国では、GNPの「P:Product」を「H:Happiness」に置き換えたGNH(Gross National Happiness)というユニークな指標を提案しています。経済規模から見れば、ブータンはまだ貧しい国です。しかし、国民が幸せかどうかが本来は重要なはずだというのがブータン政府(国王)の考え方で、実際に、GNHをいかに高めるかという観点から実施された政策もあるというのですから驚きです。

 年収やGDP、GNPが人間の幸福と無縁だとはいいません。食べることに最大の努力を注がなければならなかった時代には、「本当の幸せとは何か」などという問いかけをするゆとりもなかったのですから。とはいえ、こうした経済を測るものさしがすなわち豊かさを表しているという考え方は、この成熟した社会では、もはや共感を得られなくなっています。

格差社会を生き抜く知恵

 格差社会を生きるための条件が見えてきました。通貨といえば法定通貨しかなかった今までは、経済活動は必ず企業で行うものでした。しかし地域通貨が整備されれば、自分の地域へ帰ってきてから社会奉仕に参加することで、収入の不足を補えるようになるのです。

 通常、1人の人間は企業に入ると1つの役割しか与えられません。それは効率を優先する企業側の都合で1つに限定されているだけで、本当はほかにもいろいろなことができる能力や技術を持っているはずです。その力を発揮できるのが、地域のコミュニティーなんです。自分ができることをやってコミュニティーに貢献し、地域通貨を獲得する。自分ができないことは、逆に地域通貨を支払って地域から奉仕してもらう。地域通貨で相互扶助を機能させることが、格差社会でも豊かに暮らしていくための最適な方法の1つといえるでしょう。

 高齢者も、地域通貨で年金の不足を補うことができます。かつて東京の市部に次々と建てられた団地が、今や巨大な老人ホームといった様相を呈しつつありますが、その街に暮らす高齢者の中には、いろいろな知恵を持った人がいるはずです。左官屋も、自動車の修理ができる人も、農業の知識が豊富な人もいて、互いにその知恵を必要としている。それを分け合うためのツールとして地域通貨が導入されれば、生活をもっと豊かにできるはずです。

 少子高齢化の時代に年金の増額は難しいでしょう。「ないものねだり」をしようにもできないのだから、「あるもの探し」へと発想を転換しなければなりません。「あの人は以前、自動車メーカーに勤めていて、自動車の整備を自分でできるらしい」といった具合に、探せば地域の「お宝」が見つかるはずです。お宝とは知恵であり人材です。それを磨いて、つなぐんです。そして、労働に見合うだけの対価は支払いますが、法定通貨では助け合いではなく利益追求になってしまいますから、地域通貨にするわけです。

 この「ないものねだり」「あるものさがし」は、以前お話しした徳島県の上勝町の事例と似ていますね。次回は、地域の生き残りという視点から、「お宝=人材」の重要性、そして人々がつながり合うことの意義についてお話ししたいと思います。